MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ナンシー』

2018-07-19 00:22:45 | goo映画レビュー

原題:『Nancy』
監督:クリスティーナ・チョウ
脚本:クリスティーナ・チョウ
撮影:ゾーイ・ホワイト
出演:アンドレア・ライズボロ―/J・スミス=キャメロン/スティーブ・ブシェミ
2018年/アメリカ
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018 最優秀作品賞)

嘘をこじらせる嘘つきについて

 主人公で35歳のナンシー・フリーマンには父親がおらず母親のベティと一緒に暮らしているのであるが、体調を崩しているベティはナンシーに文句ばかり言っている。内向的なナンシーは人付き合いが苦手なのだが、例えば、北朝鮮に一人で旅行してきたと嘘をついて偽の写真まで用意して人の気を引くのである。
 ベティが突然亡くなって遺品を整理している時に、ナンシーは30年前に5歳の娘のブルックが行方不明になったリンチ夫妻をテレビで見たのであるが、ブルックの現在の似顔絵が自分に似ていることに気がつき、夫妻に電話をしてポールという名のネコを連れて会いに行くことにする。
 夫のレオは心理学者で妻のエレンは比較文学の大学教授だった。レオは当時のことをナンシーに訊きながら、DNA鑑定を頼むことにする。最初はぎこちなかった3人だが、エレンはナンシーのことを気に入り、ナンシーが書いたという「The Red House」という小説をジョーン・ディディオン(Joan Didion)の『ラン・リバー(Run, River)』を引き合いに出しながら褒めてくれたりする。
 DNA鑑定でナンシーはブルックではないことが暗に示された後に、エレンとナンシーが森を散策している際に、銃が暴発して倒れていた少年をナンシーが手際よく処置する様子を見てエレンはナンシーがブルックではなくても一緒に住んでいいと思っていたのだが、不思議なことにあれだけ平気で嘘をついていたナンシーがひるんでしまい、自ら真実を話す前、二人がまだ眠っている時に密かに車で去っていくのである。嘘が完璧で真実と化しているならば問題ないのだが、ついている嘘に少しでも疑惑を持たれてしまうと相手の思いやりでさえも嘘のように感じて受け付けられないというアイロニーが悲しい。


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