原題:『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』
監督:李闘士男
脚本:坪田文
撮影:松本ヨシユキ/島秀樹
出演:榮倉奈々/安田顕/大谷亮平/野々すみ花/浅野和之/品川徹/螢雪次朗
2018年/日本
不妊問題を「コスプレ」と「日本文学」で挟み込む「荒技」について
2016年の7月、39歳の主人公でサラリーマンの加賀美じゅんは妻のちえと結婚3年目を迎えようとしている。実はじゅんはバツイチで前触れもなく前妻が出て行ったことにトラウマを持っていたために、ちえとは結婚3年目で改めて2人の関係を見直してみることを話し合っていた。
そんな頃から、東急世田谷線松原駅近くの家にじゅんが帰宅するとちえが死んだ振りをし始めたのである。妻の謎の行動を不審に思うじゅんは会社の同僚の佐野壮馬に相談するうちに、佐野の妻の由美子と一緒に4人で食事をするようになるのであるが、そこでちえは結婚5年目になる由美子が不妊に悩んでいることを知り、さらに原因は壮馬にあることがわかり、壮馬と由美子は離婚することになってしまうのである。実は不妊の問題は加賀美家の問題でもあることが暗に示されている。
ちえの父親の進一が倒れたことでちえの地元の静岡に向かい、進一の入院先の病院を訪ねた後に、2人は実家に寄る。ちえの部屋のあった『日本文学便覧』をじゅんがめくっていると、夏目漱石のページに「月がきれいですね」と書かれていた。これはじゅんがプロポーズした際に、ちえが発した言葉でその時はじゅんは意味が理解できなかったのであるが、夏目漱石は「I love you」をそのように訳していたのである。
そうなるとちえが死んだ振りをしていた理由も理解できる。本作では突風のために2人の会話が聞き取れなかったのだが、『日本文学便覧』に拠るならば「あなたのもの」という意味のロシア語を二葉亭四迷が「死んでもいいわ」と訳したことから来ているのである。しかしだからといって調子に乗ってじゅんがちえに同じようなことをしても理解されないという不条理が結婚というものなのである。