原題：『Moonlight』
監督：バリー・ジェンキンズ
脚本：バリー・ジェンキンズ
撮影：ジェームズ・ラクストン
出演：トレヴァンテ・ローズ/アンドレ・ホランド/マハーシャラ・アリ/ナオミ・ハリス
２０１６年/アメリカ
少ない「手数」で感動させる作品について
第８９回アカデミー賞の作品賞を最後まで争ったと思われる『ラ・ラ・ランド』（デミアン・チャゼル監督 ２０１６年）とは全く対照的に、静謐でミニマルな表現で人間の機微を表していることに驚く。
例えば、大人になった主人公のシャロンは送られた少年院のあるジョージア州アトランタで麻薬の売人を生業にするようになり、もはや「リトル」と呼ばれていた面影はなく、体を鍛えて大きくなっている。そんな時に突然シャロンは同級生だったケヴィンから電話をもらい、ケヴィンが経営しているフロリダ州マイアミにあるレストランへ赴くのであるが、シャロンが乗っている車のナンバーが「ブラック３０５（BLACK305）」で、「ブラック」とはかつてケヴィンがシャロンに付けたあだ名なのである。
今ではグッディー・モブ（Goodie Mob）の「セル・セラピー（Cell Therapy）」のようなラップミュージックを聴いているシャロンと再会したケヴィンがシェフ特製の料理を提供した後に、シャロンのためにジュークボックスで流した曲がバーバラ・ルイス（Barbra Lewis）の「ハロー・ストレンジャー（Hello Stranger）」でここも泣かされる。本作のストーリーに沿って和訳をしておきたい。
「Hello Stranger」 Barbara Lewis 日本語訳
こんにちは、「お客さん」
また会いに来てくれてとても嬉しいよ
どれくらい経つだろう
とても長かったように感じる
僕はとても嬉しいよ
僕に挨拶をしに立ち寄ってくれたから
以前もこんな感じだったことを思い出すよ
とても時間がかかったように感じる
また君がここにいることがとても嬉しい
もしも君が帰るつもりならば
どうか昔君がしたように僕を扱わないで欲しい
だって僕はそれでもまだ君が大好きなのだから
とても長かったように感じる
とても時間がかかったように感じる
また君がここにいることが僕にはとても嬉しいんだ
お互いの気持ちの表し方が絶妙だと思った。
