原題:『Gambit』
監督:マイケル・ホフマン
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
撮影:フロリアン・バルハウス
出演:コリン・ファース/キャメロン・ディアス/アラン・リックマン/スタンリー・トゥッチ
2012年/イギリス・アメリカ
贋作を購入させることと本物を盗むことの違いについて
邦題通りに、本作はクロード・モネの2つの『積みわら』を巡る攻防のみならず、主人公で美術学芸員のハリー・ディーンが所有するシスレーの小品や、あるいはハリーの雇い人であるライオネル・ シャバンダーが泥棒対策として自分の名前にちなんで飼っていたライオンに襲われようとするハリーの背後に、おそらくアンリ・ルソーが描いたものと思われる森の中のライオンの絵画が掲げられているなど、様々な印象派の絵画を楽しむことは出来る。
印象派の作品はシャバンダーのように接近して観賞するような質のものではなく、少し離れて観賞することで輪郭が鮮やかに浮かび上がってくるようなものであり、本作も印象派の絵画を観るような視点から捉えるべきものなのであろうが、タカガワが率いる日本のケーブルTV会社の交渉人であり、英語の堪能なチャックとテキサスのカウガールであるPJプズナウスキーとの‘禅’を巡る余りの‘相性’の良さには、ライオネル・ シャバンダーのみならず、観客さえも騙されてしまうであろう。ハリーが自分が所有している絵画を盗もうと企んでいることを分かっていながら、クロード・モネの『積みわら、夏の終わり』の贋作に関するハリーの説明をシャバンダーが鵜呑みにしてしまう原因は本作の最大の謎である。雇い主の作品を盗むという行為の辻褄を合わせるのに、ハリーがホテルに飾ってあった明の時代のツボを盗むという伏線では弱すぎるように思う。