原題:『黒の挑戦者』
監督:村山三男
脚本:松浦健郎/石松愛弘
撮影:渡辺公夫
出演:田宮二郎/坪内ミキ子/久保菜穂子
1964年/日本
紫煙について
あるホテルの一室、シャワーを浴び終えた東野文江が出てくると、ベッドの上で通商局に勤める庵谷樹一が血を流して横たわっていた。取り乱した文江は表から出ることをためらい、雪景色の中、ベランダから下に止まっているクルマの屋根に飛び移ろうとしたが、ベランダの手すりに掴まっていた両手の指を誰かに外されて落下してしまう。文江は顧問弁護士の南郷次郎に御茶ノ水の公衆電話ボックスから何とか連絡を取ったものの、次郎が到着した時には既に息は無かった。
ここからストーリーが展開することになるのであるが、実はこのような物語は二の次なのではないかと思わされる理由は、事件現場であるホテルの部屋には、何故か消し忘れて紫煙を出し続けるタバコが灰皿の上に置かれているためで、その後も次郎のヘビースモーカーぶりや、次郎と敵対することになる山雨楼社長の宝城寺竜子を中心としたグループも次郎に負けず劣らずのヘビースモーカーたちで、彼らと取り引きをする外国人たちもわざわざタバコを吸っており、ついには竜子に銃口を向けられていても次郎はタバコを吸っている有様で、このタバコの‘吸い合い’によりフューチャリングされる紫煙は特筆に値すると思うが、やがてこの紫煙はクライマックスにおいて発砲後に湧き出す白い煙に取って代わることになり、最後はグループの名簿が隠されていた引き出しに仕掛けられていた自動拳銃の発砲と同時に沸き起こる白い煙と共に竜子が絶命することで「煙の物語」は終わるのである。