「蟹工船」日本丸から、21世紀の小林多喜二への手紙。

小林多喜二を通じて、現代の反貧困と反戦の表象を考えるブログ。命日の2月20日前後には、秋田、小樽、中野、大阪などで集う。

細田源吉「トップをきつて進んだ作家」 1933年5月

2010-03-08 00:33:10 | takiji_1932
小林君の印象で、今も一つ思ひ出せるのは、拡大委員会の席上でのことであつた。会議も済んで江口君が山梨(?)農民組合の依頼だといふのでみんなに短冊を廻はし、いろ/\書かせたことがあつた。私はふとローザ・ルクセンブルグの言葉を見出して、
「踏みつけられた蛙のやうに生きてはならぬ……」といふ文句を書いた。するとすぐ傍にゐた小林君がその短冊をとつてしばらくながめ乍ら、その文句をバツトの空箱の白い空地へ鉛筆で書きつけ、
「これアいゝな!……ね、これアいゝ」と、二三度言つたものであつた。
 それから数日後、彼が丁度執筆してゐた「都新聞」の小説を当日私は愛読してゐたがふと見ると、ローザのその言葉を村の農婦がもう一人の農婦に話してゐるのだ。私は彼の作家としての絶え間なき探い熱のある注意力に頭を下げすにゐられなかつた。私は一度も作品の上でそのローザの言葉を生かし得なかつたのに、彼は立派に生かしてゐたからだつた。

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