「蟹工船」日本丸から、21世紀の小林多喜二への手紙。

小林多喜二を通じて、現代の反貧困と反戦の表象を考えるブログ。命日の2月20日前後には、秋田、小樽、中野、大阪などで集う。

プロレタリア文学の人々―松田解子

2010-09-19 22:19:00 | 「党生活者」論 序曲
松田解子

●松田 解子 (まつだ・ときこ 1905.7.18-2004.12.26) 

小林多喜二の戦友の一人で、戦後も民主主義文学運動をリードしてきた作家の一人として知られ、代表作「おりん口伝(くでん)」で知ら
れる松田解子、本名大沼ハナは、明治38年(1905)秋田県仙北郡荒川村に生まれた。生きていればこの7月18日が満100歳の誕生日だっ
た。晩年まで旺盛に作家活動を続け、200年1月には郷里、秋田・大仙市に松田解子記念室が2月開設され、一昨年夏白寿の祝いをした
ばかりだったが、昨年12月26日逝去した。主な著者「おりん口伝」「おりん母子伝」「桃割れのタイピスト」「松田解子全詩集」など多数。
生誕100年を迎えた今年7月、松田解子を語る会が開かれ、『松田解子自選集』(民衆社 全10巻)刊行中。
                    ◇
本名大沼ハナは、秋田県仙北郡荒川村に貧しい炭坑夫の娘として生まれる。鉱山事務所に働きながら秋田女子師範学校本科二部に入
学。卒業後は、母校の大盛小学校で教鞭をとる。明治38年秋田女子師範卒業後、小学校2年間勤めるが、教壇で子供たちとともに労働
歌を歌い、社会の矛盾を詩に託すなどの教育が問題となり、退職。1926(大正15)年に上京、江東地区の工場で働き、東京自由労組の
幹部で労働運動家の大沼渉(おおぬま・わたる)と結婚。その関係で28(昭和3)年3月15日の共産党大弾圧事件の時に、夫と生後間もな
い長男とともに検挙される。

 昭和3年、処女短編「産む」が読売新聞新人賞に入選。筆名の「解子」は、「解雇」されることが度重なったことに抗議が由来。
同年、日本プロレタリア作家同盟に加わり『戦旗』に詩「坑内の娘」(28年10月)、小説「A山の娘」(29年1月)などを発表したほか『文芸公
論』『無産者新聞』などにも執筆。小林多喜二、宮本百合子、本庄陸男、武田麟太郎らと親交した。(『回想の森』参照)『女人芸術』(長谷川
時雨主宰)が募集した「全女性進出行進曲」の作詞に入選後、『女人芸術』に参加、次々と小説、評論、随筆を発表した。なかでも2巻3号
の自伝的恋愛小説号に発表した「飢餓途上」は、青森から上京後、職に就くことができず飢餓の日々が続くなかでの恋愛--検挙と自伝
的要素が強く、次の「乳を売る」(2巻8号)はブルジョワ家庭の病弱な子供のために1日500グラムの母乳を1円で提供、乳から突然に離さ
れて痩せ細り泣く我が子をただ見つめるしかない母親の悲しみは階級への怒りを描いて注目された。「ある戦線」(『戦旗』1932年増刊号)
は防毒マスク工場での女性労働者のたたかいを描く。

プロレタリア作家同盟が解散に追い込まれた後は、『文学評論』誌を中心に『人民文庫』『文芸通信』『文芸案内』などを作品発表の舞台と
する。34年9月、久保栄、相模清らと『文芸街』を創刊。35年12月詩集『辛抱づよい者へ』(同人社書店)、37年に長編『女性線』、42年9月
『朝の霧』(2冊ともに古明地書店)を刊行。

 戦後は、東京・江古田の地で発足させた共産党細胞の活動で小林多喜二の「妻」伊藤ふじ子やその夫で漫画家の森熊猛や上田耕一
郎(現・日本共産党副委員長)らと地道に活動、求められて日本共産党から衆議院議員候補として民主日本の建設のため立候補者活動
をしたほか、秋田・大館の花岡鉱山では遺族への補償を勝ち取る訴訟、また、松川事件では被告の支援にいちはやく取り組み、被告の
手記を編集し、のちに志賀直哉が支援した広津和郎の支援活動のさきがけとなるなどの活動を精力的におこなった。

戦後の文芸活動は『新日本文学』『人民文学』『文化評論』『民主文学』『女性のひろば』などを中心に活躍。代表作には、小説に『尾』(昭
和23)・花岡事件の真相を追究した『地底の人々』(昭和26-27)・『おりん口伝(くでん)』正続(1966-67 新日本出版社)など。(『お
りん口伝』は第8回田村俊子賞、第1回多喜二・百合子賞を受賞)。『回想の森』(79年、新日本出版社)では自身の半生を回想し、『あす
を孕むおんなたち』(92年、新日本出版社)に戦中、戦後の女性像を刻んだ。
詩集には『烈』(昭和36)。『子供とともに』を出版するなど、児童問題にも関心も深かった。
『民主文学』2002年1月号「ある坑道にて」の執筆など晩年もその筆力はゆるまなかった。この間、小林多喜二の顕彰にも旺盛に取り組
み、記録映画『時代を撃て・多喜二』への証言とともに、2003年秋田での母親大会、などで多喜二との出会い、多喜二を現在に生かす意
味などを語ってきた。絶筆は「小林多喜二との出会いと敵方から何を学んだか」(『民主文学』2003年2月号)

【作品紹介】 「おりん口伝」=作者の生地の三菱・荒川鉱山(銅山)が作品の舞台。奥羽本線羽後境駅から徒歩または「馬車軌道」で北
東に約10キロ入った山峡の地。時代は正編が明治33年から同40年、続編は40年の師走から45年の年明けまで、計12年に及ぶ。
主人公の「おりん」は、数え22歳で、鉱山の請負師・東畑吾作の妻の連れ子である和田千治郎に嫁ぐ。やがて夫千治郎をはじめとして身
内の多くの死に遭遇し苦難の生活を続けながらも、仲間たちに支えられて、前向きに生きる女性としてたくましく成長する。以下、そのあら
すじ。

 ――「りん」は嫁いだ翌日から、飯場の若衆を加えて総勢40余人の大世帯の食事の世話からつくろいものまで面倒をみます。
ついで選鉱場の女工となった時、夫とその仲間たちの話から、片山潜や足尾銅山鉱毒事件直訴の田中正造の名を知ります。それを希望
の星として、夫は仲間たちと協力して組合を創ろうと努力する。
しかし、そのために会社側の巡視に殺され、死因も心臓麻痺として処理されてしまう。りんは夫の死後婚家を追われ、やむなくヨロケ坑夫
の菅井豊蔵を二度目の夫にする、豊蔵は笑顔を見せたこともなく、「骨と皮の顎を空へつきだし、紙のように薄くなった小鼻をふくらませ、
歯をきしませて」、彼もまた病で死んでゆく。

 赤茶けたハゲ山、亜硫酸を噴き出す精錬所、崖っぷちに建つ灰色に連なった長屋、その長屋には監視役として懐に匕首(あいくち)を呑
む男たち。シラミと南京虫の巣となった煎餅布団、枕代わりの角材。
――このような殺伐とした鉱山の日々においてさえもここに生きる、鉱山衆の人間的な魅力が描かれている。りんが豊蔵と一緒になった
のは、お互い憐憫に似た愛があったからである。落盤死した仲間を悼んで「おんおん」と声をあげて泣く男たち、彼らにはもとより命を張っ
た原初的な連帯があった。

 続編の最終場面は、明治44年大晦日から元旦にかけての東京市電一千人のストライキの報に、職工の藤田が「東京はたいへんです
てァ」と長患いの床から叫ぶ。りんは藤田の女房に焼き立てのメリケン粉餅をもらい、高揚した気分で吹雪に逆らって家路をいそぐ。 

作者はあとがきで「働く者の生活と生命を噛み切ってふとる独占資本(略)おりんの周辺と、おりん自身が味わった悲憤は、そして働く者が
男女と老若を問わず、その過程で示し合った連帯と団結への心情は、いかにしても語りつがねばならぬものと思えたのでした」と記してい
る。

※2004年7月に『松田解子 白寿の行路~生きて~たたかって~愛して~書いて』において、評論家・新船海三郎の質問にこたえて回想)
も刊行されている。

10/9 秋田魁新聞による

松田解子さん“帰郷”/遺族らが荒川鉱山に分骨、大仙市

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初版帯付「地底の人々」松田解子★箕田源二郎
正,続2冊●おりん口伝:松田解子(新日本出版社
松田解子短篇集 署名本 初版
詩集 辛抱づよい者へ/松田解子(不二出版)
松田解子童話集『桃色のダブダブさん』 初版・新日本出版社
昭62 歩き書き 土に聴く/松田解子
 松田解子 詩話十編 足の詩

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2 コメント

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マルテンサイト千年 (グローバルサムライ)
2024-05-06 17:45:35
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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AI革命前夜 (機械系DXコア技術)
2024-05-29 21:35:38
「材料物理数学再武装」かあ。なつかしいですね。プロテリアル製の高性能冷間ダイス鋼SLD-MAGICの発明者の方の、人工知能に関する講義資料ですね。あとたたら製鉄関係で誠実は美鋼を生むという話も興味深く読ませていただいた記憶がありますが、今の時流のほうがぴったりなのかもしれませんね。
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