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その他、音楽編、自然編も有り。

今、平和を語る 平和学者 ヨハン・ガルトゥングさん

2007-11-26 23:50:49 | 活字の海(新聞記事編)
毎日新聞 11月26日 夕刊 5面 ニュース インサイドより 
聞き手 広岩 近広

いろいろと突っ込みたいところはあるが、まずは氏の日本人観

「日本民族は善と悪という発想法ではなく、上下関係でものを考える。
 そのためアメリカによる占領下で、日本は人類史上もっとも従順な国」だった。

という記述には、結構納得させられた。

日本人のメンタリティを、よく捉えた発言だと思う。

同じアメリカによる占領でも、イラクと日本がなぜこうも異なる様相を呈したのか?
確かにその答えがここにある、と思う。


ただ、その後の話がいただけない。

平和的な経済=ピースエコノミーとして、消費者と生産者、全てに均等に
益がいきわたる必要がある、と氏は言う。

だがそれは、果たして現実的なのか?

氏は、社会の下部まで含めて経済的に潤いが取れている状態が、
均整の取れた経済体制かどうかの判断基準だとする。

しかしながら、あまねく公平に富を再分配するのであれば、
それは社会主義というものだ。

氏がそれを理想としているのであれば、その主張は正しいと思うが、
少なくとも自由主義経済の中において、他社に比べて付加価値を見出しえない
企業の存続は、有り得ない。

結局、自社の優位な市場を構築できるかどうかが、規模の大小を問わず
企業存続の肝であり、社会全体が底上げされた経済状態というものは、
かえって歪なのだと思う。

だからこそ、バブルは弾けたのでは無かったか?


さらにその先の対談において、これは聞き手の誘導なのだろうが、
日本が今「暴力」の多発する異常な状況だが、と氏に問うている。

#ここについての反論は、以前紹介した少年犯罪に関するコラムに詳しく記載している。

これに対しては、氏は引っかからず、日本の今の状態を、平和国家というよりは
アメリカへの従属国家であると断定する。

更に、永世中立国スイスを事例に上げ、スイスの専守防衛の軍事指針が日本にあれば、
そのような辱めを受けることはないのに、と断じる。

要は、上下関係を大事にするあまり、アメリカに阿り、軍事拡大を続けていった
結果が、歪に成長した自衛隊である。その自衛隊が海外に出て行くことは、周辺
諸国にとって不安以外の何者でもなく、かつ、周辺国は日本の自発的意思、
というよりは、アメリカへの従属の結果としての表れと見抜いているので、
日本がいくら自らを平和国家といっても、信頼は勝ち取れない、とするものだ。

もっともなところもあるのだけれど、日本が専守防衛の枠を超えた軍事力を
手にしたあたりから、周辺国は日本の警戒を余儀なくされ、その結果、
北朝鮮はテポドンを対抗策として所有している、という論旨の展開には、
首を傾げざるを得ない。

どう考えても、逆なような気がするのだが…

ただ、その次の、憲法第9条に関する氏の論旨には、激しく共感した。

氏によれば、「日本の平和運動は9条をスローガンにしすぎて、
これを心地いい枕に使ってきた。お題目のように唱えて安眠枕に
使いすぎている」のだそうだ。

9条を取り巻くシニカルな現状を、見事に表現しているではないか。

こうした呪文でははく、明確な専守防衛というポリシーに基づいた
憲法を持った上で、周辺諸国との関係を構築すべし、という氏の
意見は、傾聴に値する。

しかしながら、この記事の聞き手は、又しても質問を偏向させる。

「そうすれば、丸腰状態でも攻撃されないと。」

氏の意見のどこに、そのような論旨があったというのか?
必要なのは、専守防衛のドクトリンだという話を、なぜ捻じ曲げるのか?
ここに、聞き手の作為を感じざるを得ない。

ただ、氏の意見も、上述のように全てに渡り首を縦に振ることが
出来るものではない。

最後に述べられた、アジア安定のための方策として、EU(欧州連合)の
ような共同体を東アジアで作るべきとしているが、それが本当に最良策
なのか?

ブロック化経済政策を拡大再生産して突き進めて行くと、世界国家論に
ならざるを得ない。

それが、人類の種としての進化の方向性を示す道標となるのかどうか、
早計な判断は禁物だと、僕は思う。

ましてや、東アジアに閉じたブロック化構想は、結局他のブロックとの
軋轢が、今の国家レベルからブロックレベルに拡大されるだけでは
ないのか?

しかも、そうした東アジア共同体の本部として、韓国の済州島が
素晴らしい立地条件を備えていると絶賛して、この対談は締めくくられて
いるが、その根拠は何も提示されないまま、三段抜きで第二次大戦終了時の
済州島での旧日本軍の武器放棄の写真を掲載していることに、
この記事の構成者の意思を感じざるを得ない。

そうした消化不良な思いが残った対談であった。

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