活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

われら地球人 178  智子ドゥアルテ

2008-02-08 03:11:03 | 活字の海(新聞記事編)
Agora 2007年11月号より  文:平井英理子

全く、この手の雑誌は気を抜くとどんどん溜まっていく。
たいして興味も無ければそのまま月に一度の子ども会の古紙回収に出しても
よいのだが、紐解くとこれが面白いから始末に終えない。

先般UPした「売った本 買います ftom Atlanta」のように、小さなコラムからでも
色々考えさせられることも多々ある。

さて、そんな僕が、Agoraの中でもいつも楽しみにしているのが、
この連載「われら地球人」である。

これは、世界のいろいろな国で活躍する日本人の姿を追ったルポである。
その道を極めるような功績や努力を残しながらも、決して世間一般の
認知度は高くない、そうした人々を丹念に発掘し、これまでの半生を
追っていくこのルポを、毎月僕は楽しみにしているのだ。

さて、今月の主役は、ポルトガル菓子研究家の智子ドゥアルテ氏。

智子氏は、かつて大学卒業と同時に日本を飛び出し、ポルトガルにて
お菓子屋にて修行を積んだという過去を持つ。

こう書くと簡単だが、言葉も話せない異国へ、大学生の時に長崎旅行を
した際に食べたカステラから、今のポルトガルのお菓子事情を知りたい!
という熱意だけで単身飛び込み、英語で仕事をさせてくれ!という
紙を持って次々にレストランやお菓子店を訪ね歩き、1週間後に
ようやく働けるお店を決めた。このバイタリティは、本当に凄い!と思う。

こういう人の人生を思うと、小さな決断に迷っている自分が(いい意味で)
馬鹿らしくなる。案ずるより生むが安し。このコラムの著者である平井氏は
「見る前に跳べ」という言葉で表わしているが、正にそうした言葉を体現
しているような、彼女の人生である。

何せ、言葉もろくに通じない異国での修行である。
色々と筆舌に尽くしがたい苦労もあっただろう。
しかし、氏はさらりとこう言ってのける。

「みんな優しくてとても親切。温かみがありました。
 異国で全くの他人から親切にされて、すごく嬉しかったですね」

なかなか、言える台詞ではない。
もし文字通りの幸運が氏に訪れていたとすれば、それは氏の積極性に
運命の神が微笑んでくれた証であろう。

その後、そのお店で修行中の(つまり同僚の)男性 パウロ氏と結婚。
子供も儲け、念願のカステラ工房もオープン。しっかりとポルトガルへ
根を生やしていく。

だが、そこで暮らすことが目的ではなく、あくまでポルトガルのお菓子を
知りたい!という動機が原典の氏は、お店の運営や子育ての合間を縫って、
ポルトガルの伝統菓子レシピの収集等にも勤しんでいる。

日本と同様、世代交代が急速に進むポルトガルでも、伝統菓子の作り手は
どんどん高齢化し、すでに失われつつある製法もあるようだ。
そうしたものを少しでも多く救い上げ、記録として残し、かつお菓子として
味わっていく。そうすることに、本心から喜びを見出している氏のコメントは、
いつも小気味よい。

氏にとってお菓子は、生活に必要な主食でないが故に、作り手が誰かのためを
思って作る気持ちが色濃く出るものだ、と言う。

ちなみに、カステラは日本で独特の進化を遂げたお菓子であり、今のポルトガル
には同等のお菓子は無いそうである。

そんなカステラがきっかけでポルトガルに住むようになった氏は、やがて
カステラもポルトガルで誰もが知っている言葉になるといいな、と呟く。

20歳の頃、胸にともったその灯火を、今も消さずに守り続け、まっすぐに
掲げている彼女の生き方が、とても素敵だ。

こういった人の生き方に触れる度、自らの夢にも再び息を吹き込んで、
その熾き火を燃え上がらせなければ、と改めて思う。


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