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目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

まずは自分を知ること 井上雄彦さん 新幸福論

2010-01-15 23:47:03 | 活字の海(新聞記事編)
2010年1月15日(金) 毎日新聞夕刊 7面夕刊ワイドより
インタビュイー:井上雄彦(たけひこ)(漫画家) 
インタビュアー:鈴木梢(毎日新聞記者)
サブタイトル :まずは自分を知ること





命とは、なんだろう。
生きるとは、どういうことだろう。

今。
こうして。

息を吸い、息を吐く。
心臓は、コトコトと動き続ける。

倦まず。
弛まず。
普段、特に意識することもなく。

この体は、そのプロセスを繰り返す。


日々。
確実に。
どこかが変わっていく、自分の心身。

それは。
考え方であったり。
あるいは、老化であったり。

少しずつではあるけれど。
今日の僕は、昨日の僕では無い。

そして。
明日の僕も、また。





井上雄彦氏が。
コミックモーニング誌上に、宮本武蔵を主人公にした漫画「バガボンド」の
連載を開始して。
もう10年以上になる。
単行本も、本日発売の分をもって、32巻となった。

そして。
つい、先日。
この1年以内に連載を終了させるという宣言が、作者自身から発表された
ところである。


この作品の中で。
氏がもっとも伝えたいこと。

それが、「生」と「死」というテーマ。

武蔵も、小次郎も。
その生涯の中で、数多の人の命を奪っていく。

それでは。
そうして奪えてしまう命というものの本質とは、一体何なのか。


毎日。
テレビをつけても。
新聞を開いても。

死が目に飛び込まない日は無い。

あるいは、テレビゲーム。
その中でも、命はいとも簡単に奪えてしまう。
自分の命もまた、奪われるが。
リセットすれば、又何事も無かったかのように、命は紡ぎ出される。


そのことが人に与える影響の深刻さは、様々な意見があるし。
勿論、そこに全ての原因を押し付けることは愚かなことだけれど。

少なくとも、死というものを歪(いびつ)な形で身近にしたという点で。
何らかの問題は、有るのではないか。


それでも。
僕たちは、これからも生まれてくる様々な功罪両面を持つものと、
付き合っていかなくてはならない。


核家族化も進んで。
人の死を、身近に感じることもどんどんと少なくなってくる。

そうした中で。
命と言うものを、どのようにリアルに捉えていけばいいのか。

そのことは、大きな命題だろう。

そして。
氏は、自らの作品という方法を使って。
その命題に、真っ向から立ち向かおうとしている。


結局。
命という、目に見えず、触れることも出来ないものについて。
どれほど人が実感できるのかということの答えなんて、無い。

それを、突き詰めようとすれば。
徹底した内省しかないのではないか。

氏は、小次郎の耳を聞こえなくした理由を、そう語る。

子供の頃から沈黙の世界にある小次郎は、対話するものと言えば
自分自身しか無いのだから。

その小次郎が到達する認識の高みとは。
如何なるものなのだろう。

そして、その小次郎と対峙する武蔵の行き着く先は。


氏は、小次郎を

「武蔵に並ぶか、それ以上の大きなキャラクターにしたい」

と語っていたが。

耳が聞こえながらも。
その、到達した剣の腕前に導かれるようにして。
内なるものとの対話を繰り返し。

最後に、耳が聞こえない故に到達できる極みにいる小次郎と
戦い、それと勝つことで。

武蔵の凄さが際立ってくるのだと、思う。


物語は、これから佳境を迎える。

二人の旅路が、どのような彼岸に辿り着くのかを。

じっくりと、読者として追わせて貰いたい。



インタビューの最後で。
氏は、バスケットボールについて語っている。

氏は、試合よりも一人で行う3P(ポイント)のシュート練習がもっとも
好きなのだそうだ。

自分の体を。
自分で、どこまでコントロールできるのか。

手の角度。
膝の曲げ具合。
そして、力の入れ具合。

全てが、複合的に絡み合い、関与し合う。

それでも。
練習を積めば積むほどに。
体は、最適解に向かって近づいていくことを実感できる。

このことを氏は、

「感覚が研ぎ澄まされてい」くと、表現している。

この辺りの感覚は。
剣を求道することと通底しているのかもしれないと、そう思う。

そして。
何かを極めるというこは、畢竟自分自身との対話となり。
引いては。
自分を知ること=命とは何か、の答えを見出すことになるのだろう。


そうして得た感覚でもって。
氏が紡ぎだすドラマの結末が、楽しみである。

(この稿、了)


(付記)
現在。
大阪 天保山にあるサントリーミュージアムにて。
最後のマンガ展(重版)というタイトルで、氏の個展が開催中
である。

1月2日のオープン当日の午前5時までかかって、展示する作品を現地で
描き続けたと言う氏の力作を。
是非、観に行かねば!




バガボンド 32 (モーニングKC)
井上 雄彦,吉川 英治
講談社

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2 コメント

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Unknown (宇宙ハンター55)
2010-01-16 10:12:17
>何かを極めるというこは、畢竟自分自身との対話となり。
これは同意見ですが

>自分を知ること=命とは何か、の答えを見出すことになるのだろう。

バカボンドは読んだことはありませんが、これは飛躍しすぎではないかと…
返信する
Unknown (MOLTA)
2010-01-17 01:08:52
うん。
仰りたいことは、よく判ります。
自分でも、舌足らずだとは思う。

もっといい表現が出来るよう精進します。
返信する

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