人生の謎学

―― あるいは、瞑想と世界

スティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』

2008-11-24 21:49:00 | 世界文学
■詩人でもある小説家スティーブン・ドビンズの長編小説『奇妙な人生』は、おそらくはラテンアメリカの一都市を舞台にしている。
半年に一度、持ちまわりで夕食会を開いている十六人の同窓生のグループを中心にした物語である。
ダニエル・パチーコは中学生の当時からグループのリーダー格で、現在でも外科医として活躍し、裕福な生活を営んでいる。彼らにとっての忘れがたい経験によって、彼らは奇妙な連帯感で結ばれていた。
パチーコの邸宅にはアントニア・プッチーニという中年の女性が家政婦として住み込んでいる。そして階上の寝室には、ロベルト・コルーラという男がベッドに横たわっている。彼はアントニアのかつての婚約者であるが、バイク事故で全身不随となっている。
――内乱が勃発して道路が封鎖されたため、半年に一度の夕食会への出席を予定していた九人のうち、パチーコの邸宅にやって来たのは三人だけだった。そのうちの一人、「人生の傍観者」であることを自称する語り手のニコラス・バタビーは、「著述業界の片隅で働いて」いる。夏の盛りのうだるような暑さのなか、夕食会に一番乗りしたバタビーは、応対に出たアントニア・プッチーニの歳を四十五前後と推測し、その非常なやつれかたが「哀しみ疲れ、泣き疲れて、哀情がすり切れてしまったかのような印象」であると述べる。
パチーコは外科医として名が知られているが、好色家としても有名で、相手をした女性は千人をくだらないという噂もある。彼はセニョーラ・プッチーニに夕食会の給仕をさせながら、彼女が立ち聞きしていることを承知で、彼女からの愛を得たいがためにしてきたグロテスクな過去の関係を告白する。この告白の物語を縦糸とするなら、訪れた三人それぞれの人生の断片が横糸に織られ、人間関係とそれをめぐるいびつな感情などが、全体として人間性のあやしい歪みとして交織に織り上げられる。
――「現在」を流れる時間は、夕食会の最中に夜間外出禁止令が出されたために長い一夜となるが、きわめて内容の濃い一夜である。


スティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』_1

スティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』_2

スティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』_3

スティーブン・ドビンズ『奇妙な人生』_4
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