■大正後期から昭和のはじめにかけて、ひとりの前衛画家が活動しました。青年時代に同居中の画学生が猫イラズで自殺したことに衝撃をうけ、激しい精神的動揺にみまわれます。この画家が生きた大正モダニズムの時代は、文化面でも技術面でも進歩の著しい時代で、彼は激流に乗り遅れまいと必死に努力しましたが、やがてその神経は破綻していきました。そして彼は人間嫌いになり、自分の殻に閉じこもるようになっていきます。そのころ . . . 本文を読む
■私の生命の延命に呼応して生成変化しつづける言語パトスのうち、短歌群として《月下の人狼》なる歌集の五百首ほどがあります。
この歌集の著しい特徴は、暴力的なまでのマイナス思考、ネガティヴ思考です。絶望の度合いがあまりに激しいと、リアルな自己嫌悪にひたっている余裕がなく、世界経由で到来する剥き出しの残酷性、不平等感にひたされ、その悪意ある様相の作像解像度に瞠目するばかりです。
そのなかでも、作歌した後 . . . 本文を読む
■35ページから第二章《運命と死神》となりますが、第一章の終わりで、夢に対する恐怖を告白する男にサイコダイヴして、主人公が観たものの詳細は、やがて大きな意味をはらむこととなり、第三章《三人の異能者》(仮題)において描出される予定です。
次回からの第二章《運命と死神》では、ふとしたことから異能を獲得した男が主人公となって、宇宙意識のあれこれがガジェットとしてちりばめられ、運命、運命の特殊形態として . . . 本文を読む
■実際に何度も背中を触られたと感じたことがあり、私はこれを「共感覚」の一種と解釈してきました。それを猫のマエハタのメッセージと空想したりもしたのは、小説にある通りの理由です。
さて、瞑想によっておとずれた場所のインプレッションを他者と共有することができるのであれば、その場所は深層心理によって生成された虚構の可能性があります。しかしこの虚構の冥界に、他者の存在をトランスとしてしばしばサイコダイヴす . . . 本文を読む
■26ページの霊界からの訪問者とのやりとりは、短い描写ですが、どこか晴明が使役していたという式神を思わせます。
――主人公の背中を触っていたのが、一匹の猫であったことが、このページで明らかになります。――猫という種族は、概して哲学のエッジを外側からなぞることを強いるような生き物に思えます。その愛すべき非在の精神的内実は、人間のこころにあたたかい幻影を投射してくれます。
いまでも私はオカルト現象に . . . 本文を読む
■この小説は、私にとって感慨深いものを多くふくんでいます。それは私が実際にこの作品にあるがごとき瞑想の世界を彷徨し、さまざまな不思議なことを体験しているからであり、何でもないような些細な描写にまで、その実体験が反映されているからです。
しかし18ページにある、事故死した元妻の幽霊の訪問をうけるという体験は、この小説の構成上の要請によるフィクションです。もちろん、これに近いかたちでの死者との「接触」 . . . 本文を読む
■14ページですこし話題になった「呪い殺す」ということは、それで気が済むのなら、呪い殺すべく努力することを、私はむしろ肯定したい気持ちがします。病的な現代、安易に犯罪にはしるよりは、よほどマシではないですか。呪い殺す努力、また呪い殺したと実感した手応えを得ながら、相手が死なないでいるという「奇跡」によって、呪うしかないほど追い詰められた心優しき感受性は、さらなる高みに達することができるのです。
. . . 本文を読む
■予知や予言が、科学的な規定において不可能なのは自明であるのに、私たちはときとしてこれに過度の期待をよせることがあります。これは何故かというと、私の考えでは、私たちはときとして、時間や空間の構造に対するビザールな関心を持っているからなのです。
――さて物語は、このあたりからやや緊迫感をはらんできます。
15ページにおける、占断依頼者の女性のふしぎな夢体験は、私が考える初期のアカシック・イベントで . . . 本文を読む
■11ページに記述している幻視については、実際のところ、気のせいなのでしょう。自分にそんな異能があるはずがないと考えなおし、しかし、それにしては鮮明すぎるこの種の体験の意味はいったい何なのかと思い、いやいや決して勘違いなどではないと、ふたたび確認しなおす結果になったりして、事実はどうなのか、明確な判断が困難なのです。ことによるとこれは、いわゆるデジャビュ(既視感)と同じように、前頭葉の機能不全ある . . . 本文を読む
■物語のはじまりで、中断された瞑想に戻るかたちで描写している冥界の様子は、私が何度も幻視している幻想空間です。――私はこの場所に、自分の閉塞的な性格、美意識上の傾向が投影しているにすぎないと、ずっと安易に考えていましたが、実はそれ以上の深い理由があることに、最近気づいたのです。第三章でのその謎解きによって、この物語は飛躍的な展開をたどることとなるでしょう。
パソコンをつかっての「占断」の様子も、 . . . 本文を読む
■この長篇小説は、私のオカルト体験がベースになっています。といっても、文学的脚色がどの程度のものであるのか、容易には理解できないことかもしれません。いずれにしても、主人公の占い師が考え、体験している不可解なものの正体は、私の人生に始終つき纏ってきた何かであり、そして今後も、それは変わらずに私の経験の糧となることでしょう。
本作は三部構成になっていて、全体で三人の異能者が登場する予定です。正確には . . . 本文を読む
十年以上も前にかいた詩を再読しました。表現のつたなさが目立ちますが、ものの考えの本質は、いまと少しも相違していません。
いま同一の主題で詩語をつらねるとするなら、もっといたましい言葉を仮借なく配置するかもしれません。私は打ちひしがれた感情、立ち止まっている人、他界から振り返るまなざししか信用できません。
冥く決然と__1
冥く決然と__2
冥く決然と__3
冥く決然と__4
冥 . . . 本文を読む