……「内から外に向かって、突き抜けることが必要なの。余計なことは考えないで。素直に快楽に向き合って、没頭すべきなのよ」
女の声が、いつからか自分の内部から聞こえてくる時があった。それをじっくりと感じ分けているうちに、彼も自然と言葉を発することができるようになった。はじめて発した言葉はこうだった。
「快楽なんて、どうやって感じたらいいんだろう」
ところが、その瞬間、発した言葉のイメージが強烈に彼 . . . 本文を読む
「うぅっ――」
彼は自分のうめき声で、冥界のような眠りの世界から目覚める。
夢で通り魔にあい、夢のたびごとに刺されていて、こと新しく傷をおっている。何日もそんなことがつづき、やがて自分が夜ごと殺されていく場面だと思うようになった。――――
瞬篇小説 《夢魔》
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この物語にとって、春はことさら残酷な季節です。
片足を失った少女を描くことは辛いのですが、誰の人生にも、とりかえしのつかない苦しみの芽はひっそりと胚胎しているものかもしれません。私たちはふつう、それをふりかえり、せいぜいのところ鎮魂することしかできないのです。
瞬篇小説 《片足》__1
瞬篇小説 《片足》__2
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■《泣き男》というタイトルの短篇小説を書きました。冒頭の一行を思いついて、それが極端な場合に、どんなことになるだろう、と考えたのです。「泣き女」ならばともかく、安易な男の涙は、どこかマゾヒスティックにみえてしまいます。しかし私はピカソのドラ・マールをモデルにした《泣く女》や《ゲルニカ》あたりから、発想のヒントを得たにすぎません。
〈《泣き男》_1〉
〈《泣き男》_2〉
〈《泣き男》_3〉
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■この瞬篇小説は、本文を書き上げることよりも、図版(誌面)を製作することのほうが、よほど大変で、時間がかかります。
こういう、ざくっとした、大雑把な作品が、私はけっこう好きです。
《さかだち》_1
《さかだち》_2
《さかだち》_3
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■これ以上ないほど短いので「瞬篇」小説です。《夢の痛み》は夢の不可解さをテーマとしています。
夢のなかでふと、これが果たして夢なのか現実なのかが分からなくなり、身体の一部――多くの場合、それは手の甲や頬をつねる、という行為でなされますが――を刺戟して、そこに痛みを感じることで、自分が現実のなかにいる、ということを実感的に確認する場合があります。私はこのことに着目して、もし今を取り巻く出来事が夢か . . . 本文を読む