すぎなみ民営化反対通信

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図書館全館指定管理と「第三者機関」はワンセットの攻撃だ

2010年09月21日 | 杉並図書館指定管理をめぐって

 前回記事(9月18日)からの続きです。

 前回記事でお伝えした通り、田中区長は「教育委員会においては今後、第三者機関による評価・検証を行うということですが、十分な運営期間、少なくとも一年程度の運営期間を確保したうえで、評価、検証を行い、進めていただきたい」と答弁しています。今回は、この第三者機関について述べます。

絶対反対!民営化で図書館業務は全員非正規職に。官製ワーキングプア生みだす指定管理者制度を撤廃せよ

 

 図書館指定管理者制度実施との関係で区・教育委員会が設置しようとしている「第三者機関」が、田中区長所信表明で明らかにされた「最小経費で最大効果、多様な質の高いサービス」の観点・基準・ポイントで「評価・検証」を行う機関となることは明らかです。

「第三者機関」(外部評価制度)の役割と正体

 (1) 図書館指定管理の場合、「第三者機関」が「評価・検証」の第一のポイントとする「最小経費」とは、指定管理者企業に区が払う指定管理費をいかに安くできるかということです。

 (2) 「第三者機関」が「評価・検証」の第二のポイントとする「最大効果、多様な質の高いサービス」とは中央図書館長答弁で触れられているような時代ニーズ、区民ニーズ、地域ニーズに応えるサービス提供をいかに行い得ているかということです。田中区長が前区政を評価し継承すべき点とした「五つ星のサービス」になっているかどうかという点です。

    区内の図書館全館には「めざせ五つ星区役所」のポスターがずっと貼られています。図書館に即して具体的に挙げれば、区民(利用者)の問題解決に役立つ資料・情報の収集と提供、レファレンス能力、IT時代に即応したデーターベースから区民(利用者)に対する接遇満足度にまでわたる質の高度化、利用者からの苦情が寄せられるようなことがない、利用者に喜ばれる満足感のある「魅力的な図書館」ということになります。

 (3) しかし、ここには、図書館でこれらの仕事に従事するのは労働者である、その労働者に支払われる賃金は指定管理者企業が区から受け取る指定管理費から企業の儲け(利潤)を差し引いて支払う、企業が自由に決められる額だという賃金の問題があります。労働条件という根本的な問題があるのです。

 区長や政策経営部、行革担当部が「最小経費(低コスト)最大効果(多様な質の高いサービス)」というとき、そこで都合よく無視・抹殺されているのは、このコストで生計を左右されるのは労働者であり、この「サービス」を「提供」するためにどんなに努力を払おうとも不可能に近い課題を求められるのも労働者だということです。

   とうてい暮らしていけないような低賃金。バラバラの細切れシフトで責任ある仕事を行うこと自体が難しい職場。そういう職場で押し寄せる「ニーズ」にきりきり舞いになり、それでも「笑顔」で「接客」対応・解決し、そこにちょっとしたミスや利用者が不満をおぼえるようなことでもあればクレームが寄せられる・・・、それが指定管理の図書館で働く労働者の状態です。

    まず最初に賃金の問題

 当サイトで繰り返しお伝えしたように、時給800円台、まれに高くても900円台の超低賃金、司書の場合でも加算は時給でプラス10円~20円に過ぎないという賃金の問題です。

 区は区が雇用している図書館職員の給与等にかける総人件費より指定管理の方が低コストになるから指定管理者制度を導入する。しかも「最小経費・最大効果」で企業選定を行う以上、応募事業者の間で競争原理が働いて、指定管理費は区にとって安値買い叩きとなる。

  安値で指定管理者に選定された企業は、そこから儲けを出すために、企業は企業で低コストを追求し、時給を安くし、シフト制、ローテーション制、勤務日数も勤務時間も細切れの労働力配置をとることで常勤を最小にしほとんどをパート、アルバイトとして雇用する。指定管理者制度のもとでの労働条件とは、時給800円そこそこの超低賃金、年金も医療保険もない、雇用契約も短期間で明日の保証のない不安定雇用の非正規職の使いまわし・使い捨てにほかなりません。

 この構造が指定管理者制度や業務委託、民営化・民間委託化には不可避です。企業は、「図書館ビジネス」と呼んで全国3000図書館、1館で10人の従事者としても、《3万人労働力市場》になる」という位置づけで参入しています。《3万人労働力市場》とはどういうことか?指定管理費として自治体から企業に支払われるカネのうち、図書館業務に現場で従事する労働者への給与を差し引いた額が企業の儲けです。図書館指定管理に手をあげる企業は、早い話、専らマージン(中間搾取)による「儲け」をねらっているのです。

 どうやって指定管理者企業は儲けを大きくするのか。

  ▲ 自治体は指定管理者企業に支払う指定管理費を積算する際に、施設の保守に関わる維持費、従事者に対する指揮・命令・指導・監督、人事管理に対する企業への対価とともに幹部と従事者に企業から払われる給与の標準的算定を積算します。普通は自治体の積算するスタッフ一人当たりの給与は時給換算で1200円から1400円くらいになっています。

 ▲ ここからが最大の問題です。企業はスタッフ採用に際して時給800円台、高い場合でも9百数十円で求人情報を流し、その賃金で採用します。つまり時給換算でスタッフ一人当たり平均500円前後の「企業の儲け」となる。単純計算ですが、10人スタッフの場合1時間で5000円。シフト・ローテーションで実際にはもっと多くのスタッフが雇い入れられて働いていますが、実稼働人数は10人以上にはしませんから、図書館開館時間分(今は基本的に朝8時台始業から夜21時、遅い場合22時台終業の勤務)で1日1館で6万円の「企業の儲け」、月額にすれば休館日を月4、5日としても150万円以上の「儲け」になります。自治体が想定し積算している企業への企業利潤を含む対価としての利益以外に、これだけの「儲け」になります。

 ▲ 単純計算で10館の指定管理者になれば月1500万円、年1億8千万円もの搾取でその分大きな「儲け」を生みます。これは「すごい儲け」です。50館で年9億円、100館で年18億円にもなる。つまり図書館ビジネスとは、図書館の仕事自体からではなく、何館の指定管理がとれ、何人の従事者を得るかが目的となり、派遣館数、派遣人数で儲ける。人材派遣会社以外の何ものでもありません。だから「3万人労働力市場のシェア占有」というスローガンが出てくるのです。

② 次に図書館での仕事の問題

 図書館の仕事は、窓口対応や事務処理にとどまりません。専門職である司書をはじめとして全員が、学習・研修・習熟とチームプレー(職場の労働者同士の組織的有機的連携)、経験を通しての組織的な蓄積と継承性が、職場環境としても職場運営としても求められます。それなしにこれまで図書館が担い培ってきている社会的役割に応える図書館業務は実務的にも不可能です。実に大変な仕事です。そうした図書館の労働者の連綿と積み重ねられひきつがれてきた努力のおかげで私たちは知り、学び、問題解決の手掛かりを得る拠り所を身近な地域に図書館として持ち得ているわけです。

 区長や政策経営部や行革担当部の管理職・幹部は、図書館を図書館たらしめている人的組織的財産である図書館職員のこのような仕事について理解しているのでしょうか。本や資料の出し入れと記録のチェック、窓口受付程度、「サービスの向上」と言ってもせいぜい接遇の向上程度にしか考えていないのではないでしょうか。

 実際には、指定管理者制度のもとでは、図書館職場で仕事に就く労働者は、ひきつぎも申し送りもスタッフ会議もチームプレーも予めほとんど不可能な労働条件で細切れでバラバラに配置されて、前記したような仕事に従事し尽力しています。

 杉並区は最近とみに「司書配置率が高い」と「質の高さ」を強調していますが、指定管理者制度のもとでは司書もまた非正規職として仕事に継承性も組織性も有機性も保障されず、専門的資格職としての意欲も力も発揮しようにも発揮できない劣悪な労働条件のもとにおかれています。

③ 「最小経費、最大効果、多様で質の高いサービス」の核心

 結局、圧倒的に酷薄な労働条件で労働者に献身的な犠牲を強い、使いまわし使い捨てするものでしかありません。「図書館は指定管理者制度になじまない」とよく言われます。この指定管理者制度・民営化が、労働者の賃金等の労働条件の無視・蹂躙の極限的な犠牲のうえに、労働者に対して「時代ニーズ、地域ニーズ、住民ニーズに応えるサービス」を求めるというところに無理があるということです。

 図書館に対する「時代ニーズ」「社会ニーズ」は確かに大きくなっていjます。しかし、それは、医療・介護・保育・福祉もそうですが、公的責任において、自治体が正規職員を増員・拡充することによってしか解決できない問題です。

 指定管理者制度・民営化は逆に、図書館で働く労働者に劣悪な労働条件を強い、本来の図書館の仕事すらもとうてい担いきれないような過酷な困難を強いることで、図書館を支える土台をこわし、図書館を図書館ではなくしてしまうものです。「時代ニーズ、住民ニーズに応えるため」にと「民間のサービス提供のノウハウと力の積極的活用」をうたいながら、実際には社会的ニーズに応えることができない図書館へと変貌・変質、後退・解体させるものと言わねばなりません。

   ④ 「第三者機関」と指定管理は《まるごと民営化》推進の両輪だ

 「第三者機関」はこの根本問題を隠ぺいし、図書館で働く労働者の労働条件、労働基本権の問題を企業に丸投げすることによって、区がいかなる責任もとらないための仕組み、指定管理者制度の維持・継続・強行のための仕組みです。

 区が外部評価制度として「公正」さを装って設置する「第三者機関」が行うことは、「最小経費・最大効果、多様な質の高いサービス」の基準で指定管理者による運営を「評価・検証」し、不適切ならば改善を勧告し、必要なら指定を解除し、別企業を審査・選定するだけです。

 この基準に直接かつ根本的に関係してくる図書館で働く労働者の労働条件は、当該指定管理者企業と企業に雇用された労働者の労使関係の問題として、区=自治体から切り捨てられ、そこに区が関知・関与することは「法律上できない」ということを楯にとって、区は絶対に責任はとりません。

 この点は何度となく区の高政策経営部長や大藤行革担当部長が議会答弁(強弁)してきました。区は昨年夏の高円寺地域区民センターでの指定管理者・東宝クリーンサービスの給与未払い事件発覚した際もいっさいの責任を経営破たんした同社のせいにして「区は同社に適切に指導監督してきた」とシラを切りとおし、前掲の当該労使関係の問題として区の責任を否認し続けました。

 「第三者機関」を設置したところで、指定管理者制度が指定管理者制度であるかぎり、区がその制度を導入・実施する限り、前記したような指定管理者制度のもとでの労働条件の問題が改善されることは金輪際あり得ません。

 

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