年縞(ねんこう)
7月16日付けの朝日新聞デジタルに、『「10年に1度」の気象が頻出する理由 奇跡の湖が伝える暴れる気候』と題する、立命館大教授で古気象学研究センター長中川毅さんへのインタビュー記事が載っていた。
話の中心にあるのは「年縞(ねんこう)」である。
年縞とは、湖底への堆積物によって作られる1年刻みの縞模様をいう。
年縞ができる条件は非常に限られている。湖への大量の土砂の注入がないこと、水深が深く酸素が不足し生物がいないため湖底の攪乱がないこと、湖底が沈降するため堆積物がたまらないことなどの条件を満たさなければならない。
福井県の三方五湖の一つ水月湖がこの条件を満たし、「奇跡の湖」といわれる所以である。
2006年に中川さんたちは英国からの資金援助と長崎県のボーリング会社の協力を得て、水月湖湖底のボーリングを行い、年縞を示す45mの湖泥の柱を採掘した。これは7万年にわたる年縞を含んでいる。
年縞博物館ホームページからダウンロード
途方もない快挙である。2012年にこの年縞は年代の世界標準の物差し(IntCal)と認定された。(この年縞は福井県若狭町の年縞博物館に収められている。)
年縞を1年ごとに調べることによって、過去にどんなことが起きたかを、場合によっては月日の単位で明らかにすることができる。九州南部の縄文文化を壊滅させた7300年前の鬼界カルデラ火山の大噴火の際の火山灰が含まれている。1581年に生じた天正の大地震の痕跡も示されている。
花粉の化石が含まれているので、過去の植物の分布の変遷が分かり、気候の変動が推定できる。このことについての中川さんの話は特に印象的だった。
過去の地球では、もし現在生じれば壊滅的な影響を受けるような3~5℃の気温の上下のある「暴れる気候」が普通であった。10万年に1回くらいの割合で安定した気候が生じることがある。
年縞を調べると、1万2千年前を境にして氷期の「暴れる気候」から安定した気候に移行し、それが現在まで続いている。これは人類が農業を開始し、以降の文明を発達させてきた時期に一致する。
つまり、われわれはこの安定した気候の継続という「幸運」の上に乗っかって、文明を発展させてきたのだ。
太陽と地球との位置関係からすれば、すでに氷期に入っているはずがそうなっていないのは、地球温暖化で氷期を遅らせているからだという説もある。しかし中川さんは現在生じている、温暖化がもたらす「10年に1度」の気候変動が、安定期の終焉を早めているのではないかと危惧している。
氷期は必ず地球に訪れ、「暴れる気候」は出現する。われわれが目の当たりにしている「10年に1度」の気象は「暴れる気候」の前兆であるかもしれない。
過去の気象を研究し「暴れる気候」のメカニズムを検証するとともに、温室効果ガス対策のような現在的な方策だけでなく、中長期的な対策も準備しなければならないと中川さんは警告している。
大切な指摘だ。
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