羽花山人日記

徒然なるままに

オレタチ

2021-05-26 16:37:12 | 日記

50年以上前になるが,何気なく眺めた科学雑誌の目次にHuman-mouse hybrid(ヒト‐ハツカネズミ雑種)という見出しを見てびっくりした。神を恐れぬ所業と思って読んでみると,試験管で培養しているヒトとネズミの細胞を融合して,雑種細胞を作ったということで,ネズミ人間が生まれたわけではなかった。

自然界で細胞が融合するのは雌性(卵)と雄性(精子)の性細胞同士であって,このように体を構成している体細胞同士が融合したものは体細胞雑種と呼ばれる。性的には交雑できない遠縁同士でも雑種が得られる可能性があるということで,植物でも体細胞雑種を作る試みが始まった。植物の細胞は細胞壁に囲まれているので,これを取り除いて裸にする必要がありやや厄介である。一方動物とちがって植物では培養細胞から個体を得ることが可能である。

1970年代半ばにドイツの研究者がバレイショ(ポテト)とトマトの体細胞雑種を作出し,ポマトと名付けた。しかし,地下でジャガイモを,地上でトマトをという目論見は,どちらも貧弱で実現しなかった。

この成功を見て,日本でも体細胞雑種作出の試みが1980年代にかけて盛んにおこなわれ,いくつかの雑種が作られた。ヒエ∔イネ=ヒネ,メロン+カボチャ=メロチャ,オレンジ∔カラタチ=オレタチ等々。しかし,作った方には申し訳ないが,いずれもぱっとしなかった。ヒネはひねこびた小さな植物にしかならなかったし,メロチャは成長につれてメロンの染色体がメロメロになって細胞核から抜け落ちてカボチャになってしまった。

オレタチは立派な木に成長し,果実をつけた。わたしはそのご賞味にあずかったが,味は今一,果皮がやたらと厚かった。この果皮を使ってオレタチのマーマレードを売りだしたらどうかと提案したが,取り上げてもらえなかった。

1990年代以降,体細胞雑種は品種改良の手段としては,注目されなくなっていった。しかし,細胞融合技術は研究手段として命脈を保っているようだ。

夢の実現は難しい。(写真はBingからダウンロード)

                                    

                                                                                                                     

                                                                                             ジャガイモにトマトを接ぎ木したもので,ポマトではない。

コメント (3)
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