カミさんの友人のご夫君から写真集が送られてきた。
植松國雄 『野菜の花の写真館』 敬文舎 2021年
上の写真にある表紙を飾る花が何の花かわかる人はなかなかのものである。答えはサトイモ。このほかに,ゴボウとかサツマイモとか珍しい「花」が収録されている。それだけではない。オカワカメ,セルバチコ,ボリジ,ローゼルなど,あまり聞いたことのない作物の花も見ることができる。全部で157種類の作物の花が写真集に載せられている。花だけではない。これらの花を訪れている動物,主として昆虫,も一緒に撮影されている。
わたしは作物には親しんできたが,興味の対象は主として収穫物であり,花はどちらかといえば添え物であった。花に焦点を当てた写真集には意表を突かれた思いであり,自身の不明を恥じるとともに,作物への愛着があらためて増す気持ちになった。
著者の植松さんは,出版社の週刊誌編集長,取締役という要職を経て,引退後この仕事に取り組まれた。昆虫の訪花は一瞬のできごとであり,その瞬間をとらえるのはまさに千載一遇のチャンスである。もはや若いとは言えないお歳にもかかわらず,その瞬間を待ち続け,164枚の写真に収められた粘り強さは驚嘆としか言いようがない。
写真はプロの腕前のものである。さらに素晴らしいのは,収録されている作物についての解説文である。来歴,利用方法など,簡潔にまとめられた内容は,よくぞこれだけ調べられたものと,これまた驚嘆に値する。見て楽しく,読んで楽しく,勉強になる。(なお,ダイズは日本のツルマメから縄文時代に栽培化されたことが最近明らかにされている。もちろん中国伝来のものもあるだろうが。)
昆虫は植物の後を追って4億年以上前に陸上に進出し,以来この両者は,相互適応的な関係をもって,共進化を遂げてきた。地球生態系,生物多様性に果たした両者の役割は極めて大きい。この写真集は,そうした植物と昆虫の接点をとらえた貴重な資料である。
植松さんは毎年撮りためられた写真をカレンダー仕立てにして送ってくださった。この写真集はその集大成であろう。家庭,学校,大学,図書館に置いて,多くの人に見てもらいたい。早速,町の図書館に推挙しよう。