松本にいる姉から,幼馴染のHさんが亡くなったとの電話が入った。
Hさんはわたしより一つ年上で,生家のななめ前の家の子だった。弟さんと歳が離れていたので幼い頃は一人っ子のようで,わたしを弟のようにかわいがってくれた。どちらかいうと臆病で泣き虫のわたしには頼もしい兄貴だった。
Hさんはわたしとは別の高校に進学し,家業の農業を継いだので,会って話す機会は減ったが,わたしが帰郷して顔を合わせると,「元気か?」と笑顔で話しかけてくれた。へっぴり腰で梅の木の剪定をしていると,「見ちゃいられねえわ。」といって,はしごに乗って枝を下ろしてくれた。子供時代,その木に巣をかけた鳩の卵をそっと覗きに行ったことを二人して思い出し,懐かしがった。
松本の家屋敷を整理した時に,一番悔しがったのはHさんである。お別れにお宅に伺った時,手彫りの仏像を餞別にいただいた。「これはお守りだで,仏壇には置かなんで,どっか見えるところに置いとくりや。」といわれた。書斎の書棚に飾ってある。
その後墓参りで帰郷した時に,Hさんを訪ねることはしていない。お別れした時に抱いた感慨を,胸の中でそのままにしておきたいという気持ちがそうさせている。
郷里の知人がまた一人減った。信州弁で言わせてもらう。”Hチャ,あばね”