トウモロコシの間引きをした。この作業をするといつも思い出すことがある。
もう何十年も前の話だ。精神科のドクターに患者さんのリハビリに農作業を取り入れたいので,手伝って欲しいと頼まれた。
育てるのにあまり手間がかからず,収穫物が楽しめるものがいいと考え,トウモロコシ(スイートコーン)を選んだ。患者さんたちも積極的で,耕起,施肥,畝立て,播きつけ,出芽と順調に進み,間引きをすることになった。「育ちの良いのを残して一株二本立ちに」と育ちが劣る幼植物を引抜いて模範を示し,作業に取り掛かるのをうながしたが,患者さんたちは誰も畑に入らない。ちょっとおびえた雰囲気でわたしの手元を見つめている。生きているのに不要なものとして間引いて捨てるということが,患者さんたちにどんな風に映ったかいうことにハッと気づき,ドクターと相談して患者さんには引き上げてもらい,間引きは私一人で行った。
2,3日後,畑に来てみると,間引きされた幼植物が植え戻され,萎れていた。「生きとし生けるもの」という言葉が頭に浮かんだ。
トウモロコシを間引きするたびに,「ごめんね」とつぶやいている。