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全てはイリュージョンと知れ

2015年12月04日 | 読書
 【2015読了】121冊目 ★★
 『世界を、こんなふうに見てごらん』(日高敏隆  集英社文庫)


 もうお亡くなりになったが「動物行動学の巨人」と呼んでもいい方だろう。正直その分野は関心が薄いほうなので、するっと入ってくる内容ではなかった。しかし、読み終えて改めて目次を見直すと、その一つ一つが「学問」をするうえで必須の心がけのように思えた。三つを挙げてみよう。


 「なぜ」をあたため続けよう

 行ってごらん、会ってごらん

 じかに、ずっと、見続ける


 興味の対象がなんであれ(自然科学と言われるものが顕著だろうが)こういう習慣をつけた人は強いと思わざるを得ない。翻って学校教育の現場で、だんだん希薄になっている点のようにも思われる。「行ってごらん~」は体験重視ということである程度は進んでいるが、これにしたって他の二つがなければ駄目なのだ。


 この本のなかで一番心に残っているのは「イリュージョン」という言葉だ。言葉だけだと引田天功(2代目)をイメージしてしまうが、ここでの使われ方は「人間がつくり出した概念的世界」を表すとしている。つまり人間は「色眼鏡を通してしか、ものが見えない」ということらしい。養老先生の論ともつながるか。


 講演録が一つ収められ「イマジネーション、イリュージョン、そして幽霊」という演題である。タクシー運転手の幽霊の話が面白かったし、実に象徴的だ。イマジネーションの欠如が幽霊に結びつくというのは逆説的だが面白い。イリュージョンを剥がして次のイリュージョンへというのが、科学の本質かもしれない。

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