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格好いいの極意

2020年09月16日 | 読書
 このエッセイ集は発刊されて話題になった頃、読んでいる。もう三十年近く経った。さすがに中身は忘れていたが、題名の「あなた」が母親を指していることだけは覚えていた。初めて読んだ時、この大俳優もそうかと母親に寄せる思いに共感した。甘やかされて育った経験は良くも悪くも「思い」を強くするのだ。


 『あなたに褒められたくて』(高倉健 集英社文庫)


 著者が数年前に他界したときに、マスメディアは様々なエピソードを紹介した。そのほとんどは私たちのイメージする高倉健像を補強するものだった。この本に収められている数々の出来事も、少しいたずらっ子的な要素も含めて、やはり魅力的としか言いようのない人物像だ。ありきたりだが、「格好いい」と称される。


 その極意は、この一文に表れているかもしれない。「お心入れ」という章の結びである。「要するに思いが入っていないのに思いが入っているようにするから具合が悪いので、本当に思いが入っているのに、入っていない素振りするところが格好いいのかもわかんないですね。」人はそこに「純粋さ」を見つけるのだろう。



 さて、久々にシビレル表現(古い言い方と笑ふ)を目にした。第一章は「宛名のない絵葉書」と題され、作家檀一雄が一時暮らしたポルトガルの漁村を訪れたときのことが記されている。それはあるテレビ局のドキュメンタリーなのだが、健さんはディレクターが提示したタイトルを聞き、すぐに引き受けたのだった。


 そのタイトル名は、『昔男ありき』。その部分を読み、いやあまさにまさにと心が湧きたった。その撮影や構成の詳しい内容は知らずとも、無頼放浪の作家檀一雄の異国での生き様を、俳優高倉健がたどる…いい絵が撮れないわけがないと感じたのだ。シビレた訳は、今そういう「男」が皆目見当たらないからだろう。


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