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桜と絵本と豆乳と

生を描く映画美し

2014年07月13日 | 雑記帳
 一部に?名画の評価がある『わが母の記』を今頃になってビデオで視聴した。たぶん映画館だったら泣いたかもしれない。主人公が幼い頃に書いた詩の一節を惚けた母が口にして、大事にしまっていたその紙片を開き出す場面である。幼い頃から抱いてきた疑念が温かに溶けだす、その時をうまくとらえていたなあ。


 誰もが少しは持ち合わせている感情を、個々の登場人物に入れ込みながら、うまく物語を展開させていた。原作がどうかは知らないが、監督の原田眞人の手腕はさすがだ。作品は少ないが映画らしい映画をつくる人だ。配役もセンスがある。樹木希林は別格として、娘役、孫娘役の女優たちがぴたりとはまっていた。


 途中に何度もうまいアングルだなあと思う箇所があった。遠景から人物を映し出す場合にも、その人物の動きが見えるように工夫されていて、伝わってくる質量が独特だ。ある意味で人間の生の複雑さを描いた作品と言っていいだろうが、映画全体がそういうトータル感を持っている。晩秋の紅葉のイメージのような。


 それはある意味で,物語が伏線にあふれているということなのかもしれない。種が根を張り,芽を出して,茎をのばし,枝をひろげ,新しい葉を出し,葉が色づき…。骨格は把握したつもりだが,見直せばきっといくつものつながりを感じるに違いない。ぼんやりとテレビで見ちゃだめか。失礼な向き合い方だったか。


 さて、原作者の井上靖といえば、本学区にある中学校校歌の作詞者である。40年も前になるが、依頼されて作ったらしい。その折だろうか、本校にも直筆の言葉が残され、今は石碑に彫られて窓の外に鎮座している。「故里の山河美し 故里のこころ美し」…大作家が書くと、なんでも様になるというが、まさしく。

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