すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

参冊参校参稽(三)

2023年01月29日 | 読書
 積雪が例年並みとなり、寒さは厳しい。毎年のことと言えば…それまでだが。


『教科書名短編 人間の情景』(司馬遼太郎、他  中公文庫)

 「中学校の国語教科書に掲載された文学作品のなかから、歴史・時代小説を中心に人間の生き様を描いた作品」が編集されている。司馬を初めに9名が執筆し、ほとんどが大家と称される方々だ。自分が中学生時に読んだという記憶はないが、『高瀬舟』(鴎外)や『鼓くらべ』(山本周五郎)などどこかで読んでいただろう。掲載された年代は幅広いが、全体的に重さ、暗さが強い。今さらだが周五郎の『内蔵允留守』の筋に感心し、菊池寛『形』に人間の本質を学んだ。





『あんちゃん、おやすみ』(佐伯一麦  新潮文庫)

 著者は、数年前ある文芸誌で「ミチノオク」と題した連載第一回に「西馬音内」を取り上げていた。文庫のもとになる『少年詩篇』という単行本が出されたのは90年代の終わり。年齢は私より少し下の仙台出身の彼が、幼少期から少年期をモチーフに自伝めいた小編を47収めている。同世代と言っていいし学生時代に住んでいた地域に近く既視感や親近感が湧いた。解説の谷川俊太郎は、自分の少年時代は「甘美なものでも、詩的なもの」でもないと書く。ただ「なにかを言語化する動機が隠れている」という認識は共通するようだ。



『悲鳴をあげる身体』(鷲田清一  PHP新書)

 正直、耄碌気味の頭にはすうっと入ってこないが、数十ページごとにオオッとなる一節に出会う。その出会いが心地よい。いくつもページの端を折った。なかでも、さすがの名言は「幸福とは何か」というシンポジウムの案内をもらった時に、とっさに思いついたという答え。曰く「幸福について考えずにすんでいること」。足の小指を怪我して初めてその存在に気づくようなことと似ているかな、とふと思う。この新書は一貫して「身体」とは何かを問いかける。そして「わたし」とは…身体のどこに居るのか。