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雑念を愛してコクを…

2022年03月25日 | 読書
 別に練習などしなくとも人は老いる。書名を決めるのは、著者というより編集者の方かもしれないが、この名づけの意味は手に取る読者層、年齢層は感覚的に次の二つをイメージするのでないか。「老いる前に心がけておくこと」「老いていく現実をどう積み重ねるか」。練習好きの世代(笑)には、魅力的に感じられる。


『老いの練習帳』(外山滋比古 朝日新書)


 2020年に97歳で没した著者は、亡くなる1年前にこの新書を発刊している。もっとも単行本はその9年前、そして元になった連載原稿は40年前というから驚く。もちろん、時代を感じさせるエピソードもあるが、そのことは気にならない。自ら記すように「長く寝かせておいただけのコクはある」と感じた。


 その「コク」とはどのようにして生まれているのか。つまりは、普遍的な人間の習性や真実が寝かせられている。そしてそれに対する考え方、振る舞いや心構えなどがあまり変化せず貫かれているから、発酵しているイメージを持つのか。「古いものはもう古くならない」…生き残っている価値は、深みを増していく。


 章の立て方が、そのまま著者の流儀となっている。「荷物を持たずに歩く」「気分が変わるのを味わう」「話題は遠い人を選ぶ」そして「雑念を愛する」という章には、下のような一節があった。確固たる流儀はあるが、あまりに頑なにこだわらない。「人生は“雑誌”のようであってよい」…その軽やかさが好ましい。