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もっとたくさんの井上陽水から

2013年12月30日 | 雑記帳
 土曜夜にBSで放送された「井上陽水ドキュメント~氷の世界40年~」に見入ってしまった。日本初のミリオンセラーアルバムが発売された年に高校3年生というドンピシャリの世代,デビューアルバム「断絶」,そして一番好きな「センチメンタル」,そしてライブアルバムを挟んだこの4枚目は衝撃だった。


 タイトル曲「氷の世界」の出だしには,ちょっとくらくらきた記憶がある。ファンキーな(笑)イントロに続く歌詞が「窓の外ではリンゴ売り,声をからしてリンゴ売り」である。いったい何だと思った。しかしこの番組で中沢新一がこの詞の核を「人を傷つけたいな,誰か傷つけたいな」としたことに得心がいった。


 陽水を語る評論に「不条理」がよく登場する。番組中で本人自身も少し照れながら,それを口にした。やはりそれが一番ふさわしいのかもしれない。アルバムを買った130万人以上の人が,中高生なら中高生なりに,社会人は社会人なりに,たとえ言葉は知らなくとも「不条理」と向かい合った音楽なのかもしれない。


 オイルショックがあり高度成長終了という時期を背景にして,「終わりの始まり」を具現化してみせたのだ,と分析する人もいた。そしてそれは伊集院静が語ったように「もっとたくさんの井上陽水」が存在したことを物語る。バブルを挟みながらの波を繰り返しながら,明らかに冷えた時代へ向かう道を歩いてきた。



 その一人であった自分が,個人的に興味深かったのは「帰れない二人」の制作に関わること。セールスに関する話題も渋かったが,この曲は忌野清志郎との合作であり,どんなふうに二人に作ったか,ファンであるみうらじゅん,リリー・フランキー,そして山口隆が予想してみせたことがマニアっぽくて面白かった。


 「帰れない二人」は掛け値なしの名曲だと思う。素晴らしさは齢を重ねる度に響いてくる。存在のちっぽけさを,喘ぐように表現する美しく光るメロディと詞。この曲を作った翌年だと思うが,陽水と清志郎はツアーを組んで全国を回った。この片田舎にもやってきた。一番先に会場に並んだことを今でも覚えている。


 youtubeからどうぞ

 http://www.youtube.com/watch?v=0USYCP6VWv4

 http://www.youtube.com/watch?v=0XNcjYwEjrg