夢を見た、とソニアは言う。エスペランサは母に請われるまま、髪飾りを手渡した。ソニアは真剣なまなざしでそれを見つめていたが、やおら、耳に押し当てた。
(……?)
エスペランサは母の仕草に虚を突かれた。髪に挿すならわかる。胸に抱くのでもまだわかる。けれど、耳に当てるとは……
「何しているの、母さん」
エスペランサは問うた。ソニアは髪飾りを耳から離さずに、低く言った。エスペランサの問いに答えるというよりは、独り言のような声色だった。
「ああ……海の音がする……」
「海の音、ですって? ほんと?」
エスペランサはソニアに近寄り、髪飾りのそばに自分の耳を寄せた。
「何も聞こえないわよ、母さん」
エスペランサは不安に駆られた。母は、大丈夫だろうか。何かに取り憑かれてしまったのではないだろうか。
「ねえ、母さんったら」
「……エスペランサ」
名前を呼ばれたことにひとまずほっとして、エスペランサは母を見る。
「ここにいるわよ」
「夢の中で、呼ぶ人がいたのだよ……海においで、と」
「なあに、それ」
「見たこともない髪の色をした人だった……そら、あの飾り櫛のような」
エスペランサは息を呑んだ。占い婆のくれた飾り櫛、その銀の光。
「言ったでしょ母さん。その髪飾りをわたしにくれた人が、銀の髪をしていたのよ。そう、母さんそっくりの人がね」
名も告げずに立ち去った、船乗り風の男。エスペランサは、声に力を込めた。
「母さん、行きましょう、港町へ。呼んでいるんだわ、海が。母さんを」
(……?)
エスペランサは母の仕草に虚を突かれた。髪に挿すならわかる。胸に抱くのでもまだわかる。けれど、耳に当てるとは……
「何しているの、母さん」
エスペランサは問うた。ソニアは髪飾りを耳から離さずに、低く言った。エスペランサの問いに答えるというよりは、独り言のような声色だった。
「ああ……海の音がする……」
「海の音、ですって? ほんと?」
エスペランサはソニアに近寄り、髪飾りのそばに自分の耳を寄せた。
「何も聞こえないわよ、母さん」
エスペランサは不安に駆られた。母は、大丈夫だろうか。何かに取り憑かれてしまったのではないだろうか。
「ねえ、母さんったら」
「……エスペランサ」
名前を呼ばれたことにひとまずほっとして、エスペランサは母を見る。
「ここにいるわよ」
「夢の中で、呼ぶ人がいたのだよ……海においで、と」
「なあに、それ」
「見たこともない髪の色をした人だった……そら、あの飾り櫛のような」
エスペランサは息を呑んだ。占い婆のくれた飾り櫛、その銀の光。
「言ったでしょ母さん。その髪飾りをわたしにくれた人が、銀の髪をしていたのよ。そう、母さんそっくりの人がね」
名も告げずに立ち去った、船乗り風の男。エスペランサは、声に力を込めた。
「母さん、行きましょう、港町へ。呼んでいるんだわ、海が。母さんを」
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