地上の異変に気づいたのは、上空を流していた風神だった。急いで探りの風を飛ばし、弟の行方を探させる。目指す相手はすぐに見つかった。「兄上、何用だ?」呑気に尋ねる水神に、風神は早口で告げる。「水門を閉め忘れたろう。地上が水浸しだよ」水神の顔色が変わる。「……あの、馬鹿娘」「やっぱり彼女か」風神が苦笑した。「うっかりは師匠譲りだな。……とりあえず水を止めてこい」水神は頷いて、浮雲に乗り地上へと急行する。溜息とともに、“水返しの歌”を高らかに歌う。大地を震わせる水神の歌声に、暴れ水は見るまに引いていった。やれやれ、と落とした肩の先に、すらりと手足の長い少女の姿。これで病的に痩せていれば、この娘の魂に眠る、疫神さながらだ。「お師匠、どしたの?」「気楽に言うなよ」溜息をもうひとつ。修行の道は、長そうだ。