SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

双子の虹のハーモニー 第4話(2)

2014-03-06 14:20:32 | 書いた話
(嫌い、だって!?)
 姉姫の言葉が、風神の胸に刺さった。自慢ではないがこれまで、これほどはっきり「嫌い」と言われたことはない。
 姉の流れ星の女神は母譲りのきつい気性だが、少し歳が離れているから喧嘩にならないし、弟の水神見習いとは仲がいい。周りともうまくつきあってきたつもりだ──なのに。
 意外とこたえるものなんだな──などと、よけいなことを考えているうちに。
「お兄ちゃん」
 妹姫に衣の裾を引かれて、我に返る。
 姉姫の姿がない。
(……またか!)
 いっそ、素直な妹姫だけ連れて旅を続けようか。そんな考えさえ、胸をよぎる。だがさすがに、そうもいかない。しぶしぶ妹姫を抱いて風に乗る。崖の高みへと舞い上がると、妹姫がはずんだ声をあげて身を乗り出した。
(そうか──この子たちは、宮殿の外を知らないんだ)
 落ちないよう妹姫を支えてやりながら、風神は気づいた。両親や従者からの愛情を存分に受けて育っていても、この旅で見聞きする外界のすべてが、双子には新鮮なのだ。自由に飛び回れる自分とは違う。
(悪かったな、怒鳴ったりして)
 姉姫が見つかったら、まず謝ろう。珍しく殊勝な決意をした風神の耳に、鳥のさえずりが飛び込んできた。1羽や2羽ではない。何十、何百羽という鳥が、いた。彼らが行きついた、崖の高みに。
 そしてその鳥たちの中央に、姉姫がいた。丸い黄色の竪琴を大切そうに抱いて。姫が弦を鳴らすと、鳥たちがいっせいにさえずりだした。緑の竪琴より、わずかに音が低い。やわらかい、聴く者を幸福にするような音色だった。
「見てて、ふたりとも」
 さっきの不機嫌が嘘のように、姉姫が竪琴を鳴らす。崖が、さえずりに包まれる。
 風神は謝るのも忘れて、その光景に見とれていた。妹姫は木と話す力を示したが、姉姫のほうはどうやら、鳥と心が通じるようだ。
「なるほど、“鳥躍る谷”ね。……だけど、どうやってこんなところまで昇ったの」
「鳥さんが、乗せてくれた」
 姉姫は、うやうやしく一礼して隣を指す。いちだんと美々しい黄色の鳥が、羽ばたいた。
 やがて日が沈み、鳥たちが鎮まるまで、姉姫は竪琴を手放そうとしなかった。双子が寝入って、ようやく竪琴を天宮へと送り、風神は空の動きに目を凝らす。
 流れ星の一団が近づいていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする