オルランドは、母の衣装箪笥を開けてみた。よそゆきの服などありはしない。ほんの数着の服しか入っていない、いかにもわびしい箪笥だ。あのとき母は、貝の髪飾りをここにしまっていなかったか。おぼろげな記憶を頼りに、箪笥の奥に手を伸ばすと、箱の感触があった。
慎重に取り出したそれは、埃をかぶってはいたが、品のいい刺繍を施した縫い物箱だった。蓋をあけると、縫い物のための道具にまざって、わずかばかりのアクセサリーが見てとれた。
(あった)
見覚えのある髪飾りは、いちばん奥に、大事そうに収められていた。
「これかい、母さん」
オルランドは、母の枕元に取って返す。母親はそれを震える手で受け取った。具合が悪いせいかとオルランドは思った、が、そうではなかった。髪飾りをしっかと抱いた母親の目には、涙が浮かんでいたのだ。
「どうしたんだ、母さん」
「……」
「え? 聞こえない」
「……かがり火が見えるよ……」
「なんだって?」
「かがり火さ。そら、あの子が踊ってる」
「しっかりしてくれ、母さん」
オルランドは焦って、髪飾りを母親から取り返そうとした。だが母親は、思いもよらない力でそれを拒んだ。
「おれには何も見えない。かがり火って何のことだ」
「……オルランド」
「ここにいるよ、母さん」
オルランドは手の力を緩めた。よかった、どうやら気がふれたのではないらしい……。
「おまえ、これと対の髪飾りをどうしたの」
「ああ、あれなら人にあげちまったんだ。……エスペランサっていう踊り手に」
慎重に取り出したそれは、埃をかぶってはいたが、品のいい刺繍を施した縫い物箱だった。蓋をあけると、縫い物のための道具にまざって、わずかばかりのアクセサリーが見てとれた。
(あった)
見覚えのある髪飾りは、いちばん奥に、大事そうに収められていた。
「これかい、母さん」
オルランドは、母の枕元に取って返す。母親はそれを震える手で受け取った。具合が悪いせいかとオルランドは思った、が、そうではなかった。髪飾りをしっかと抱いた母親の目には、涙が浮かんでいたのだ。
「どうしたんだ、母さん」
「……」
「え? 聞こえない」
「……かがり火が見えるよ……」
「なんだって?」
「かがり火さ。そら、あの子が踊ってる」
「しっかりしてくれ、母さん」
オルランドは焦って、髪飾りを母親から取り返そうとした。だが母親は、思いもよらない力でそれを拒んだ。
「おれには何も見えない。かがり火って何のことだ」
「……オルランド」
「ここにいるよ、母さん」
オルランドは手の力を緩めた。よかった、どうやら気がふれたのではないらしい……。
「おまえ、これと対の髪飾りをどうしたの」
「ああ、あれなら人にあげちまったんだ。……エスペランサっていう踊り手に」