SNファンタジック日報

フラメンコと音楽をテーマにファンタジーを書きつづる新渡 春(にいど・しゅん)の、あるいはファンタジックな日々の報告。

悲喜街のシェリー屋(3)

2008-11-29 19:08:31 | 書いた話
青年は、「アンヘル」と名乗った。
(アンヘル……天使、ねえ)
その名は、青年の軽やかな風情にはいかにも似合いに思えた。ミノリは、未だに自分の中のくすぐったいような思いを打ち消せずにいた。
アンヘルはそれを知ってか知らずか、相変わらず爽やかな笑顔を向けてくる。
トニオ爺さんも気にはならなくもないらしいが、とりあえず黙って成り行きを眺めている様子だ。こんな時にこそ何か言ってほしいのに、少し胸が切ないミノリだった。
アンヘルは、あっという間に店の人気者になりつつあった。少女のミノリと無愛想なトニオ爺さんしかいなかったシェリー酒の屋台に、それまで見向きもしなかった女性客がしばしば訪れるようになったのだ。
売上も上がるのだが、明らかにシェリー酒ではなくアンヘル目当ての客もいて、ミノリにはそれが何やらおもしろくない。当のアンヘルは、誰にもまったく同じ態度で接客していて、その意味ではあっぱれな商売人ぶりといえた。
こうして、シェリー酒の屋台がかつてない賑わいを見せ出したある日、ちょっとしたゴタゴタが起きた。
コメント
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