父と電話で話した。
今月、父は81歳を迎えて、いまだに毎日会社に行くし、
趣味の油絵も続けていて、至極元気でいてくれる。
8年前に大病をしたが、そのあとは病気を得る前よりも健康なぐらいで、
今も毎日1時間ほどのウォーキングを欠かさない。
それでも、年齢は正直なもので、あちこちガタが来ている(父・談)という。
先日も、血圧が高いと言われたとかで、
血圧計を手元において、「年寄りくさいったらありゃしない」とこぼした。
父よりも若い人たちが、余命を宣告されて命を閉じてゆくのを、父はたくさん見てきた。
「僕はね、今なにが望みって、元気溌剌なままスーって消えるように一瞬で死にたい、それだけだよ」
「朝起こしに言ったら死んでたとか?」
「うんうん、それもいいなあ」
「でもさ、それじゃあ、私が会いに行く時間がないじゃない」
「そうなんだよなあ、じゃあ3日ぐらい待ってやるか?」
私はかつて、父と、父自身の死について話したことはなかった。
私はどうしても、父に言っておきたいことがあったのだが、それをどんなふうに
どんな場面で切り出せばいいか見当がつかなかった。
電話で話しながら、今がその時かもしれないと思ったけれど、
いざ言おうとすると、喉が締め付けられたようになってしまう。
それでも私は、気力を振り絞った。
「お願いがあるんだけど、もし一瞬で死んじゃったら、すぐに私に会いにきてくれないかなあ」
「えー、どういうこと?」
「だからさ、魂が身体から抜けたら、ヒョイってハワイまで飛んでこれるじゃない」
すると父は楽しそうに大笑いして言った。
「あはー!そうか、もう飛行機乗らなくても行けるんだなあー!うんうん、約束するよ。
タダだもんな、何度も行っちゃう。でも怖がらないでよー」
「それはこっちの台詞だよ。おとうさんならわざと怖がる演出で出てきそうだもの」
「うわっはは!どうやって出るか考えるのも楽しいゾ。
でもな、必ず行くから」
突然涙が出てきて、鼻声になるのを悟られないように、あわてて電話を切った。
天真爛漫で自由で、明るくて前向きで、楽しいことが大好きな父が
いったいどんなふうに会いに来てくれるのか想像すると、少しだけ笑えるけれど、
私が選んだ生き方は、こんな約束をしなくてはならないんだといまさらのように思う。
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今月、父は81歳を迎えて、いまだに毎日会社に行くし、
趣味の油絵も続けていて、至極元気でいてくれる。
8年前に大病をしたが、そのあとは病気を得る前よりも健康なぐらいで、
今も毎日1時間ほどのウォーキングを欠かさない。
それでも、年齢は正直なもので、あちこちガタが来ている(父・談)という。
先日も、血圧が高いと言われたとかで、
血圧計を手元において、「年寄りくさいったらありゃしない」とこぼした。
父よりも若い人たちが、余命を宣告されて命を閉じてゆくのを、父はたくさん見てきた。
「僕はね、今なにが望みって、元気溌剌なままスーって消えるように一瞬で死にたい、それだけだよ」
「朝起こしに言ったら死んでたとか?」
「うんうん、それもいいなあ」
「でもさ、それじゃあ、私が会いに行く時間がないじゃない」
「そうなんだよなあ、じゃあ3日ぐらい待ってやるか?」
私はかつて、父と、父自身の死について話したことはなかった。
私はどうしても、父に言っておきたいことがあったのだが、それをどんなふうに
どんな場面で切り出せばいいか見当がつかなかった。
電話で話しながら、今がその時かもしれないと思ったけれど、
いざ言おうとすると、喉が締め付けられたようになってしまう。
それでも私は、気力を振り絞った。
「お願いがあるんだけど、もし一瞬で死んじゃったら、すぐに私に会いにきてくれないかなあ」
「えー、どういうこと?」
「だからさ、魂が身体から抜けたら、ヒョイってハワイまで飛んでこれるじゃない」
すると父は楽しそうに大笑いして言った。
「あはー!そうか、もう飛行機乗らなくても行けるんだなあー!うんうん、約束するよ。
タダだもんな、何度も行っちゃう。でも怖がらないでよー」
「それはこっちの台詞だよ。おとうさんならわざと怖がる演出で出てきそうだもの」
「うわっはは!どうやって出るか考えるのも楽しいゾ。
でもな、必ず行くから」
突然涙が出てきて、鼻声になるのを悟られないように、あわてて電話を切った。
天真爛漫で自由で、明るくて前向きで、楽しいことが大好きな父が
いったいどんなふうに会いに来てくれるのか想像すると、少しだけ笑えるけれど、
私が選んだ生き方は、こんな約束をしなくてはならないんだといまさらのように思う。
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