昨日の朝、いつもの目覚ましアラームが鳴る直前に、テキストメッセージが入ったお知らせ音がして目が覚めた。
4時半、ちょっと前。
相手は同僚のマネージャーからで、昨夜、オーナーが亡くなったという。
メッセージの中の、 PASS ON のところを何度も読み返した。
私の読み間違いじゃないかと思って。
彼はまだ70代半ばだ。
確かにここ数年は肺が弱っていてあまり外に出なくなったと聞いていたけれど、父親は97歳まで生きて大往生だったし、まさかこんなに早く逝ってしまうとは思わなかった。
最後に会ったのは、今年の春。
彼は背が高く、俳優のクリストファー・プラマー(映画「サウンドオブミュージック」)に似たハンサムな人で、この店を心から愛していた。
メッセージをくれた同僚に電話をかけた。
彼女はオーナーの奥さんの妹で、既にオーナーの家に駆け付けているという。
「そういうわけで、今日は仕事に行けないと思うんだけど、せめて店を閉めるのはできるように行くつもり」
「今日はできるだけお姉さんのそばにいてあげて。私は一人で大丈夫だから」
ゼネラルマネージャーはオーナーの娘さんで、もう一人の娘さんも経理担当で仕事をしており、彼女の旦那さんも数年前にチームに加わった。
ゼネラルマネージャーの腹違いの息子さんが、今年マネージャーになった。
という、コテコテの同族会社。
私が日本で働いていた、父の会社とおんなじだ。
だから、身内になにかがあれば、ごっそりとその人たちが抜けるわけで、
残ったクルーでお店を維持しなくてはならなくなる。
自宅で、眠るように息を引き取ったという。
突然の訃報に、娘さんたちの驚きと悲しみはいかばかりだったろう。
車で駆けつけても50分はかかるところに実家はあって、その道中の彼女たちの気持ちを思うと胸が苦しくなる。
彼女たちと腹違いの息子さんは独身で実家の離れに住んでいるから、彼と奥さんは死に目にあうことができた。
ひとりで大丈夫だから、と言ったものの、どういうわけだかその日はものすごい数のお客様がみえて、その上、病気で来れない従業員もいたから、目の回る忙しさ。
その合間を縫ってたくさんの商品入荷があり、すべてのクルーがいくつも持ち場を掛け持ちしつつ、言葉どおり走り回っていた。
1日を終えたときには、椅子に座りこんでしまったほどだ。
その上今週は6日ぶっ続けで働いている。
翌日は休みで、美容院の予約があり、忙しくて行けなかったギャラリーの作品補充や、ギャラリー用のクリスマスギフトの買い物など、予定が立て込んでいる。
もしも仕事になってしまったら、それらは全部キャンセルすることになり、その埋め合わせをどうしようかと考えていた。
そこに、オーナーの息子さんからメッセージが来た。
「僕は明日、早番?それとも遅番?」
「え!仕事に来るの!」
「行くよ」
「どんな気持ちなのか少しはわかるつもり。何て言ってあげていいのかわからないけど、ほんとうに残念だったね。あなたもみんなも大丈夫?」
「うん。昨夜はみんなずっと起きてた。僕はたくさん泣いて、横になって、さっき起きたところだよ。ものすごくいろんなことが起きてる」
いつかは必ずくるとわかっていたことが起きてみると、まさか本当にくるとは思わなかった、と思う。
親との別れは、きっと多くの人にとってそんなふうではないかと思う。
幸運なことに、亡くなる前日まで父には会うことができた。
パンデミック中で、何年も会えないうちにそのまま亡くなってしまった母。
父は88で、母は85で、しっかり生ききってくれたからなのか、大泣きはしなかった。
けれども、もう会えないのだという悲しみや、後悔やらが深く深く心に突き刺さったままで、その感情はいつまでも和らいでいくことがない。
スピリットになったオーナーは、お店にもやってきただろうか。
彼が愛してやまない人たちのもとを訪れ、天国のおとうさんと再会しただろうか。