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「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム その2

「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム その1 
2010年2月27日開催
の続編

トムラウシ山遭難事故に関して 今後の教訓として 思いついたこと

 トピック的に その2


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■1 ザックカバー

強風下で 経験することだが どんなに 強固に固定していても 大体 ザックカバーは 風速15-20m/sec以上になると 飛ばされる事が多くなる。

このとき 流し止めの紐などで しっかり固定していかないと飛んでいってしまう。

もともと ザックカバーなどという しなものは 軽い横風の程度では使えるかもしれないが  強風雨 風雪のもとでの使用は想定していないものだ。

はっきり言って 強風雨 風雪のもとでは ザックカバーは 全く使い物にならないどころか ザックカバーを直しているうちに パーティーからはぐれてしまって 遭難した例も過去にはあるなど、 悪天候時にはザックカバーなど厄介なものになるだけだ。


もちろん 強風での行動を控えるのが一番望ましいのだが もし どうしても強風の風雨 風雪 の天候でも  行動するというのなら ザックカバーに頼らず ザックの内味で濡れたら困るものなど 個々の内容物をしっかり 濡れないよう しっかり防水対策しておくことが むかしからの山屋の常識なのだ。

そういえば もとはといえばザックカバーなど 低山ハイカー向きのもので 沢屋は わざわざ ザック本体に 排水穴を開けるなど、昔の山屋には 全く無縁のものだった。

 

トムラウシ遭難パーティーではザックカバーが飛ばされる報告があった。

もっとも ザックカバーが飛ばされる程度の風が吹くということは かなりきつい風雨だから 一般的な山歩きでは 行動を慎重にという シグナルがでていると 感じるべきなのだろう。


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■2 低体温症対策 「頭を冷やすな」


トムラウシ遭難事故の 直接の遭難原因は 強風雨と低温での行動で 低体温症となったことだった。

低体温症で 行動が鈍くなり 中でも 頭脳を冷やして 正常な判断能力が低下。

冷静な判断を下せば 色々と対策が出来たことも 判断力低下で 次々と 深みにはいっていってしまい さらに 低体温症を悪化させてしまう。

低体温症対策は 結局「予防しかない」という。

状況が悪くないときに 頭を冷やさない ようにし 低体温症予防処置をする必要を痛感した。

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「本遭難の直接的原因である低体温症は、予知が難しく、教科書どおりにはいかない。初期段階での対応が肝心だが、それより以前にガイドは、雨、風、気温、年齢、体力、補給すべきエネルギー(カロリー)など、どのような状況、あるいは環境になったら低体温症の危険があるか学習し、よく理解しておく必要がある。」
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)


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■3 携帯電話


携帯電話の普及で 安易な救助要請が増えた という指摘もある。

山の原則は あくまで自力で無事下山すること。

まず第一の基本原則は なんとしても無事自力で下山することに最大の努力を払うべきだ。

その原則を前提としても 万が一 不幸にして 救助を要請しなければならない事態に陥ったとしたら、諸刃の文明の利器といえるのが 携帯電話。

2009年7月16日 トムラウシでの遭難の 救助要請も携帯電話で 行ったが遭難パーティーは 7月14日 避難小屋では携帯電話で天気情報も入手した。

何故 もっと はやく救助要請をとか もっと 詳細なウェザー情報を取得しなかった とかいわれるのも 携帯電話があるからこそで、連絡がつけば 色々と出来ることが沢山でき 選択肢が増えるのである。

低体温症でない 冷静な判断能力を維持して 通話可能な場所をチェックするなど 非常時なら携帯電話を活用できるよう 普段から訓練として 色々なシミュレーションも 考えておくべきだ。

なお 最近の携帯電話の新機種にはGPS機能が付属している。

GPSをもっていて うまく活用できれば 道迷い遭難はぐっと減る。

それでも 万が一遭難し 救助要請するというのなら  GPS位置情報もチェックし通報しておけば  救助に向かう捜索範囲をピイポイントに狭めて 救助を素早くできる。

GPS、 遭難した時、救出養要請するとき、あるいは遭難防止対策に 是非活用したい。


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■4 地上風は 地形で左右される


2009年7月15日 トムラウシ山付近では 南からの風は 地形的な要素で弱まり 雨はふったものの風がなかった。翌 7月16日は 風向きは変わり 横からの強風雨となった。

気圧配置で変わる 風向きなどは 山の上では 山の地形で地上風は風の強さ 風向きなど 大きく左右される。

山間地では この位置では この風向 風力、 ここでは 違う 風向 風力と 地形で左右されてしまう。

出発時点での風雨 風向と 途中の各ポイント。

地形図で予測も出来るが 多分に 経験的な要素が多い。

ここで この風で あそこなら どのくらいの風。 予測がつけば 対応も出来る。

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■5 山では「はやめに 天候が悪化」し 「天候回復も遅れる」

「昼からは晴れる」とかいう 平地での天気予報を聞いて 山へ行くと 大体において 思ったより天気が悪いのは 山では いつものことである 。

一般的な天気予報は平地での予測。
平地では 気圧の中心で判断するが、気圧の周辺部でも 山の天気は影響する。

だから 山地では、タイムリードというか 数時間は早く悪化、 回復もタイムラグで数時間 いや半日以上 かも知れないが ずれがある。

「昼からは晴れる」というのは 平地でのことであって、常に早めの 変化が現れ 回復も遅れるのが 山の天気だ。

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■6 一方は遭難 一方は無事。

2009年7月16日 無事トムラウシ温泉へ到着した某パーティーがあった。

7月16日朝 遭難パーティーの出発から30分後 ヒサゴ沼避難小屋をでた組織登山者のパーティーは リーダーとサブリーダーの意見の相違はあったり 多少の低体温症になったりしながらも 全員無事トムラウシ温泉へ到着した。

一方は遭難 一方は無事という現実。

遭難パーティーとの 違いは 一体 どこに あったのか ガイド協会の事故報告書にでていた。

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「このパーテイがアミューズPと同じ時間、同じコース、同じ気象条件下でありながら無事下山できた理由は、周到な準備、仲間意識、前日の短い行程による体力の温存、長時間の停滞がなかったこと、などが挙げられる。
しかし、天候の予測とパーティの行動決定については、意見をまとめることに苦慮していた。行動に不安を感じたら、やはり安全策を優先させるべきだろう。結果的に無事下山できたとはいえ、あの悪天候の中、ヒサゴ沼の避難小屋を出発すべきではなかったと思う。(金田正樹 記)」

縦走日程を強行した遠因に 民宿の予約 帰路の切符の手配 などあるとしたら エスケープ下山の可能性などにたいして フレキシブルな対応ができるよう 旅程変更が可能な計画が 今後は必要になるのだろう。

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■7 登山のDNA

シンポジウムのなかで

「ツアー トレッキング会社のなかで 元々 山屋が起業し 社員も 山屋のDNAを きちんと 引き継いでいる ツアー トレッキング会社は 僅か数社。」という発言があった。

今日 ツアー会社 トレッキング会社 をはじめ 山岳会 同好会 NPO組織など引率型登山を実施するのであれば   すべて 登山のDNAを引き継ぐ 立場で 判断すれば 良いのだが、リスクのある コースを 、「旅行会社」として たどろうとするところに 基本的な 問題が潜んでくるのだろう。

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「そもそも旅行業界の中で、元々専門家である登山家たちが起業して成り立ち、経験の深い登山家たちが実務を行なっている旅行会社は、わずか数社にすぎない。概ね百名山などの付加価値に着目して商品化し、あるいは他社が成功していることに追従して企画・募集している旅行会社がほとんどである。
 つまり、ツアー登山業界は、旅行業のレベルで考えて「登山」を安易に商品化していないだろうか。体制的には整っているように見えるが、それはビジネスとして成立しているだけで、登山活動の着実な実施と安全性の確保という観点から検証すると、実力不足を感じさせる会社がほとんどではないだろうか。経営者や企画者、登山ガイドが一体となって、ツアー登山に対するレベルアップに努めるべきであろう。
 登山が、専門的な登山家や登山者だけの遊びではなく、ツアー登山という形で敷居を下げ、自然を愛する人々に広く親しまれ、定着していくことは大変喜ばしいことではあるが、そこに潜むリスクをいかに回避していくかについては、ツアー会社の責任も、ガイド同様に重い。」
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)

 
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 「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム
2010年2月27日開催

トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウムの当日の資料集が下記URLにて配布されています。(PDFファイルにてダウンロードできます。)

http://www.imsar-j.org/2009-04-23-09-38-06/2009-04-23-10-26-43/97-2010-03-04-08-13-46.html

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社団法人 日本山岳ガイド協会
トムラウシ山遭難事故調査特別委員会による
トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書)


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「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム
2010年2月27日開催 その1


「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (河童)
2010-03-09 07:36:58
全ては自然現象。そして対峙する人も自然の一つ。
人任せにすることなくそれぞれが自覚を持って行動する事は当然のことだと思いますが、
今回の津波警報により避難した人の割合が低かった事にも、不安を覚えます。

 
 
 
コメントありがとうございます。 (趣深山)
2010-03-09 19:46:42
> 今回の津波警報により避難した人の割合が低かった事にも、不安を覚えます。

コメントありがとうございます。

自然災害

いつ何が起こるか分からないもので、いつでも 他人事でなく 切実にとらえなくてはと思います。
 
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