伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

裁判の非情と人情

2017-03-26 22:00:25 | 人文・社会科学系
 高裁裁判官時代に20件以上逆転無罪判決をした(81ページ)元裁判官の著者が、雑誌「世界」に連載した裁判関係のコラムをまとめて出版した本。
 裁判所の青法協弾圧・原発裁判への圧力などを描いた「法服の王国」(黒木亮:これが産経新聞に連載されたことも驚きでしたが)を、「かなりのフィクションも含まれているが、最高裁判所を中心とした戦後の司法の大きな流れ(それも暗部)はほぼ正確に摑んでいると思う。」(46ページ)、誤判/冤罪の原因について「これまで、このような検討は、全国裁判官懇話会を中心に行われてきた。しかし、最高裁は、懇話会を敵視し、排除してきた。その経緯は第二章にも挙げた、黒木亮『法服の王国』(岩波現代文庫)に書かれているとおりである。」(96ページ)と紹介し、さらに無罪判決をするのには勇気がいるとしばしば言われることに関して「勇気がいるというのは、無罪判決を続出すると、出世に影響して、場合によれば、転勤させられたり、刑事事件から外されたりするのではないかということであろう。これも、残念ながら事実である。」(82ページ)と述べています。業界人には、常識の域ではありますが、東京高裁の部総括(裁判長)だった裁判官にこう明言してもらうと気持ちいい。
 「裁判官の仕事では記録を丹念に読む以外に、近道はない。この習慣は、若いうちから身につけないと後で困ることになる。どうしても、簡便で能率の良い記録の読み方を探そうとする。とくに若い判事補には、要領のよい記録の読み方をしようとする者が多い。しかし、記録は、隅から隅まで丁寧に読むべきなのである。昔、東京高裁でお仕えした四ツ谷巌判事(のちに最高裁判所判事)は、記録の一隅の数行に真実が隠されていることがあるから、記録は、一行でも疎かにできないとよく言われていた。そのとおりであることは、後に実感した。」(75ページ)は、同業者として、実感するところです。とてもしんどいけれど。
 学者とは違って実務家は締め切りを厳守しようとするという指摘(49~50ページ)、そうあるべきだしそれで当然と言いたいし私は準備書面の提出期限は(よほどの事情がない限りは)守っていますが、私の相手方の弁護士が提出期限を守って出してくるのは半分くらいというのが実感ですから、当たっていると言えるかどうか。近年、法廷を平気で遅刻する若手弁護士が目立ってきた(51ページ)というのも、よく聞く話ではありますが、遅刻して平気な弁護士は昔からいましたから、近年の若手が特にと言えるかどうかもやや疑問です。
 裁判と裁判所を扱ってはいるのですが、短く軽めのコラム集ですので、業界外の人が裁判所の雰囲気を知るのには読みやすくいい本だろうと思います。


原田國男 岩波新書 2017年2月21日発行
「世界」2013年10月号~2017年1月号連載
コメント
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