伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

マヤ文明 密林に栄えた石器文化

2012-08-16 09:03:39 | 人文・社会科学系
 マヤ文明についての解説書。
 四半世紀にわたりマヤの遺跡発掘と出土した石器の研究に取り組み、最初の発掘地のホンジュラスで妻も娶った著者が、「謎と神秘の文明」扱いされているマヤ文明の誤解を解き実像を知らせたいと考えて書いた本だそうです。
 マヤ文明が暦や天文学、宗教活動に没頭していた神秘的な人々というイメージで語られたのは、20世紀半ばまで欧米のマヤ学者が暦、天文学、宗教活動に関する部分しかマヤ文字を解読できなかったためで、その後のマヤ文字の解読の画期的な進歩によって碑文には他の文明同様王朝史などが詳細に書かれていることが明らかになっている(42ページ)、マヤ文字は1文字で1つの単語を表す表語文字や1文字で1音節を示す音節文字が併用され部首に相当する要素の組み合わせがある点で日本語の漢字仮名交じり文と似ている(39~40ページ)という話は、興味深く思えました。
 また著者の専門領域の石器の分析から、マヤ文明では統一王朝は成立しなかったが黒曜石製石器の交易範囲から都市国家を超えた広域支配があったと見られること(74~79ページ)、石碑の彫刻や装身具等の美術品の製造は専ら支配層の書記が行っていたと見られること(172~184ページ)などを論ずる部分は、なるほどと思います。
 内容的には、マヤ文明がインドより先に0を使用していた(22~23ページ)、多数の循環暦が用いられており(循環暦だから2012年に世界が滅亡すると予言していたなどということは嘘)天文学的な数字を計算していた(33~39ページ)など興味深い話が多いのですが、例えば最初の方で私が強い関心を持った「実際にはそれほど行われなかった『生け贄』が過度に強調されている」(14ページ)について、実際には生け贄はどれくらい行われていたのかとか「それ程行われていない」という根拠は何なのかというところがその後も書かれていないなど、やや食い足りないところもあります。
 他方、火山の噴火で短期間に廃棄されて当時の生活の様子を残しているホヤ・デ・セレン遺跡から農村での庶民の生活を説明する部分や、戦争で滅ぼされて短時間で放棄されたと見られるアグアテカ遺跡から王宮の生活を説明する部分など、画期的なことが書いてあるのだろうと思うのですが、それが発見される前はどう考えられていたかとかわからないのでどれくらい画期的なのか判断ができませんでした。そういうところとかもう少し書き込んでくれたらもっとよかったと思うのですが。


青山和夫 岩波新書 2012年4月20日発行
コメント
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