中3の時に失恋して以来、私は恋をすることに臆病になっていたのだろう。高校時代にも「可愛いな」と思える娘が居るには居たのだが、自分の気持ちを相手に伝えようと思うまでには至らなかった。
そして大学に入学。私は「フォークソング部」の扉を開いた。そしてそこで、大いに驚いた。なんと部室に「薬師丸ひろ子」さんがいたのだ!ここでは、その娘の名は、仮に「A美ちゃん」としておこう。A美ちゃんの姿にTKOさせられた私は、フォークソング部への入部をその場で決めた。
私は大学まで地下鉄とJRで通学していたのだが、ある金曜日の朝、偶然にも地下鉄でA美ちゃんと一緒になり、それから大学までの小1時間ほど、彼女と二人きりでの時間を過ごすことができた。異性を意識するようになってから、そんなに長い時間、家族以外の女性と話をしたのは、初めてのことであった。ああ、青春。それから私が幾度となく「偶然に」彼女との通学時間を過ごしたことは、言うまでもない。
で、ここからがようやく本題である。A美ちゃんのことを好きになるとともに、私は「薬師丸ひろ子」さんも好きになってしまったのだ。それまでは薬師丸サンには、まったく興味が無かったのだが・・・この辺が、私の浅はかで単純なところだ。
そしてこの当時リリースされていた「花図鑑」というアルバムを貸しレコード屋で借りてきて、カセットテープに録音して毎日のように聴いていた。薬師丸さんの透明感のあるヴォーカルは、蝉の声が岩に染み入るかのように、私の体の中に浸透した。
特に、「紫の花火」という曲が、切なくていとおしく、素晴らしいチューンだった。作詞は女ゴコロをなんであんなに細かく描写できるのかが不思議な「松本隆」氏。作曲はなんと「薬師丸ひろ子」サン本人なのだ。
さて、その後。たゆまぬ努力の結果、私はA美ちゃんと松任谷由実様のコンサートに一緒に行く約束を取り付けることに成功した。だが、しかし・・・それ以降の展開については、知っている人は知っていることなので、ここに記すのは割愛しよう。ああ、青春。