Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§167「白夜」ドストエフスキー, 1848.

2023-05-26 | Book Reviews
 「白夜」とは、真夜中であるにも関わらず、真っ暗ではなく薄明かりに照らされた現象。それがそうであるはずにも関わらず、それがそうではないことが分かることを「白夜」という題名が示唆しているような気がします。

 「どうして、あの人があなたではないんでしょう?どうしてあの人は、あなたみたいな人間でないんでしょう?」(p.84)

憧れる〈あの人〉は〈わたし〉であるはずもなく、〈わたし〉と〈あなた〉との対話に〈あの人〉という三人称が介在するとき、〈あなた〉は〈わたし〉に〈あの人〉を投影しているのかもしれません。

 一方、〈わたし〉も〈あの人〉に自らがそうありたい姿を投影し、そんな〈あなた〉を深く知ろうとしていたのかもしれません。

 でも、〈あなた〉が〈あの人〉と結ばれて、「白夜」が忽然と暗闇に変わったとしても、〈あなた〉と〈わたし〉がお互いを知ろうとした時間は永遠に存在し続けるのかもしれません。

「人間の長い一生に比べてすら、それは決して不足のない一瞬ではないか?」(p.115)

初稿 2023/05/26
写真 α28C「アンとミシェル」朝倉響子, 1993.
撮影 2023/01/14(東京・府中の森公園)
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