Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β6「天気の子」

2019-10-25 | Movie Reviews
 自らに期待される役割に生き甲斐や責任感を意識すること。それが、自我の芽生えという「物語」なのかもしれません。

 でも、その期待に応えられず、押しつぶされそうな責任感のなかで、罪の意識にさいなまれ、それでもなお「大丈夫」と思えるのか?

 大切な人たちを想う気持ちに気付くことや、罪の意識にさいなまれる自分に、「大丈夫」と言えるもうひとりの自分に気付くことが大切だと思います。

 心の底から等身大の自分を受け入れて、自分らしく生きようとする「物語」を自らが編み出して歩むこと。それが、アイデンティティ(自己同一性)のような気がします。

♪「何もない僕たちになぜ夢を見させたか 終わりある人生になぜ希望を持たせたか なぜ手をすり抜けるものばかり与えたか それでもなおしがみつく僕らは醜いかい それとも きれいかい 答えてよ」♪
(Lyrics by RADWIMPS )

(新海誠 監督作品, 2019)

初稿 2019/10/25
校正 2020/09/04
写真「空の向こう側の世界」
撮影 2019/09/08

β5「君の名は。」

2019-10-20 | Movie Reviews
 約千年の時を経てふたたび厄をもたらす彗星。そして約三年の時を超えてはじめてめぐり逢うふたりの物語。

 ユング心理学において、太古の昔からひとの心に受け継がれてきたイメージが元型(アーキタイプ)と呼ばれ、それらは、自らの意識において在るべき姿を追い求める「自我」と自らの無意識において在るべき姿とは全く逆の「影」、異性の理想像を司る「アニマ/アニムス」、人智の及ばぬ存在や原理を司る「老賢人」、生と死を司る自然の摂理を司さどる「グレートマザー」。

 ひとの心に潜むそのイメージに支配されるのではなく、そのイメージに自らが向き合ったとき、因果関係が無いはずのめぐり逢わせを、どこかでつながっていると意識すれば、自分だけの物語が始まるのかもしれません。

 エンディングにふたりが問いかける「君の名は。」という台詞には、自分だからこそ乗り越えられたという自信と自分らしく生きることの意義を示唆しているような気がします。

♪運命だとか 未来とかって 言葉がどれだけ手を伸ばそうと 届かない場所で僕らは恋をする♪
(Lyrics by RADWIMPS )

(新海誠 監督作品, 2017)

初稿 2019/10/20
校正 2020/09/06
写真「何処かで巡り合う君と僕」
撮影 2012/11/07(東京・新宿遠景)

β4「星を追う子ども」

2019-10-14 | Movie Reviews
 大切なひとは星になって見守ってくれる。そして、大人は子どもに「さよなら」をそう諭します。

 そんな大切なひとをよみがえらせるために、自らの存在をかけてでも地球の底奥深くに在るとされる黄泉の国を旅する物語。

 ひょっとしたら、その国は生と死を司る原理や自然の摂理を想起させる「グレートマザー」と呼ばれる元型(アーキタイプ)の暗喩なのかもしれません。

 生と死を司る原理や自然の摂理にあらがうのではなく、受けとめること、受け入れること、認めること、許すことの大切さを知ったとき、子どもは「さよなら」の本当の意味を理解し、大人の階段を登り始めるような気がします。

(新海誠 監督作品, 2011)

初稿 2019/10/14
校正 2020/09/06
写真「黄泉の国への入り口」
撮影 2019/09/08(大阪・服部緑地)

β3「雲のむこう、約束の場所」

2019-10-06 | Movie Reviews
 雲のむこうにそびえ立つ「塔」が示唆するのはなにか?もし、これまで選んでいればもたらされたはずの現実、もしくは、これから選ぶことによってもたらされる現実なのかもしれません。

 ひょっとしたら、そのすべての現実を知ることができる存在や原理が、雲のむこうにそびえ立つ「塔」として示唆されている気がします。おそらくそれは、人智の及ばぬ存在や原理を想起させる元型(アーキタイプ)のひとつ「老賢人」の暗喩のような気がします。

 でも、その「塔」へ連れて行くという「約束」を果たすことを選んだことによってもたらされた現実は、再び約束の場所をひとりで訪れること。

 見つめれば見つめるほどぼんやりとしか見えず、つかもうとすればするほど掌からこぼれ落ちてしまう現実。「秒速5センチメートル」にもすこしだけ重なる物語のような気がします。

(新海誠 監督作品, 2004)

初稿 2019/10/06
校正 2020/09/07
写真 デューイ記念碑(勝利の女神)
撮影 2019/09/08(サンフランシスコ・ユニオンスクウェア)