Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§129「目の見えない人は世界をどう見ているのか」 伊藤亜紗, 2015.

2021-09-26 | Book Reviews
 時間と空間は一様な場であると仮定すれば、目に見える事象は連続した時間の関数として記述できます。そういった考え方が科学技術の進歩をもたらした「近代化」という価値観にも繋がっているような気がします。

 また、視野とはその空間における事象を二次元に変換した視覚情報であり、観測対象を離れた場から観測するという前提条件があるからこそ、視点には必ず死角が存在するとともに先入観や固定観念が入るそうです。

 ところで、私たちが意識せず当たり前のように見える世界を、目の見えない人はどう見ているのかという問いかけは、視覚に偏重した「近代化」という価値観に対しての警鐘であるとともに、多様な世界の理解にヒントを与えてくれると思います。

「見えない人は、物事の在り方を、『自分にとってどう見えるか』ではなく、『諸部分の関係が客観的にどうなっているか』によって把握しようとする」(p.74)

 一方で、生物学においては「環世界」という概念があり、客観的な世界は存在せず、生物種固有の世界が独立して存在するそうです。

「つぼみではなく、開いた花だけが、意味のあるものとして、モンシロチョウたちの世界を構成するようになります」(p.34)

ひょっとしたら、ちょっと先の未来においては、あらゆる存在そのものを在るがままに認識しようという価値観が大切になるのかも知れません。

初稿 2021/09/26
写真 環世界(蝶にとっての世界)
撮影 2008/04/26(大阪・箕面公園昆虫館)
発行 2015/04/20 光文社新書 751

§128「〈文化〉を捉え直す」渡辺靖, 2015.

2021-09-19 | Book Reviews
 長男が志望する大学における入学前育成プログラムの推薦図書の一つ。「異文化理解」、「多文化世界」、「人びとのアジア」に続く四冊目です。

 国際社会における脅威や現代社会における矛盾と相剋に関する要因として、西欧化から近代化を経てグローバル化に至るまでの単一な価値観がもたらしてきたことを示唆しているような気がします。
 
「境界線に囚われた中身そのものよりも、まずはそこに境界線が引かれていることの意味を問う。中身の『善し悪し』や『好き嫌い』そのものよりも、線引きの背後にある意図や力学、基準をまず問うのである」(p.162)

 知らず知らずに、事象や物事を理解するために境界線を引いているのかも知れません。そして、境界線に囲まれた事象や物事について、いつの間にか偏見や羨望、不安や期待といった固定観念として理解しようとしているのかも知れません。

 ひょっとしたら、海の向こうの遠い国で起きていることや、目の前で起きていることのいづれにも当てはまるような気がします。

初稿 2021/09/19
写真 国立科学博物館
撮影 2018/11/03(東京・上野)
発行 2015/11/20 岩波新書(新赤版)1573

∫41「東京 建築 十選」〈庁舎・民間ビル編〉

2021-09-11 | Architecture
 東京での単身赴任生活も早四年になりますが、ここ一年半ほどリモートワークが多いのもあり、これまでに撮った写真を整理してみました。

 まず、明治から大正後期までに竣工した都内の建築のなかから概ね時代に沿って、自分のなかで印象に残ったものをピックアップしてみました。

 特に、明治(〜1912年)の建築は赤レンガ造の構造と西欧の歴史的建築様式を織り込んだデザインが印象的です。(写真①〜④参照)

 一方、大正12年(1923年)の関東大震災を契機に鉄筋コンクリート構造と重厚で機能的なデザインに変貌しているような気がします。(写真⑤〜⑩参照)

 当然、建築構造の変化は科学技術の進化に起因するかもしれませんが、建築様式の変化もまた「西欧化」から「近代化」の歴史を現在に伝えてくれるのかもしれません。

初稿 2021/09/11
写真「東京 建築 十選」〈庁舎・民間ビル編〉
 ※①〜⑩ 建築名(場所), 竣工年度.
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①旧三菱一号館(東京・丸ノ内), 1894.
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②法務省旧本館 (東京・霞ヶ関), 1895.
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③旧近衛師団司令部(東京・北の丸),1910.
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④東京駅(東京・丸の内), 1914.
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⑤国立科学博物館(東京・上野), 1926.
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⑥聖徳記念絵画館(東京・神宮外苑), 1926.
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⑦和光本館(東京・銀座), 1932.
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⑧明治屋本社(東京・日本橋), 1933.
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⑨日本橋高島屋(東京・日本橋), 1933.
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⑩宮内庁庁舎(東京・皇居内), 1935.
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§127「人びとのアジア」 中村尚司, 1994.

2021-09-05 | Book Reviews
 文化人類学という科学者の立場からだけでなく、アジア人花嫁や出稼ぎ労働者の苦境などの社会問題に対して、日本人と同様な権利や保証を公平に享けることができないアジアの人びとに寄り添い、救いの手を差し伸べた記録です。

 18世紀以降の近代化は、国家の枠組みに必要な体系的な規範をニュートン以来の古典物理学という単一の価値観に求めてきたのかもしれません。

「経済学も物理学と同じように、微分可能な数量の関数関係で経済現象を全部記述できれば、完成された姿と考える。その特徴は、観測する者とされる者とが、相互に関係をもたないことである」(p.196)

 ところが、定量的な効率性が求められる経営や経済における諸問題は、その客観的な合理性が解析の範囲内で担保されているに過ぎず、その範囲を超えた諸問題については、自らが当事者として関与していくことの大切さを示唆しています。

「自己のフィールドで、自分の活動の成果を記録し、それが社会的にどういう意味があるのか問い続ける作業である」(p.201)

 定量的な効率性や客観的な合理性を追求するだけでは真の問題解決には繋がらず、当事者として相互の理解と共感がとても大切であり、人文学系統を学ぶ目的が少しだけ垣間見えたような気がします。

初稿 2021/09/05
写真 東京ジャーミイ
撮影 2020/10/10(東京・渋谷)