Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§42「世に棲む日日」(高杉晋作) 司馬遼太郎, 1971.

2015-10-25 | Book Reviews
 「おもしろき こともなき世を おもしろく」

 大河ドラマ「花燃ゆ」のなかで、高杉晋作が語る印象に残る言葉のひとつ。

 言い換えると、権力を畏れ、秩序に重きを置くが故に、視点が固定化せざるをえず、相手を畏れることなく、見くびり侮ることなくば、自ずと視点が拡がるものなのかもしれません。

 彼の求心力は、憂う時局に絶えず視点を変えて自らの役割を決断し、成すべき事を果たすという思考と動けば雷電の如く発すれば風雨の如しという行動、そして艱難を共にすべく、富貴を共にすべからずという心構えに尽きると思います。

 彼の生涯は僅か二十七年。時局の興亡を見極め、踏み外すことなく変革した史実と行動原理を伝えてくれているような気がします。

初稿 2015/10/25
校正 2020/12/25
写真 光めがけて伸びゆく木立
撮影 2015/10/25(京都・貴船川)
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§41「世に棲む日日」(吉田松陰) 司馬遼太郎, 1971.

2015-10-20 | Book Reviews
 大河ドラマ「花燃ゆ」の中で、吉田松陰が語る印象に残る言葉のひとつ。

「至誠にして動かざる者は未だ之れ有らざるなり」

 言い換えると、決して曲げない信念をもって挑めば必ず成就するということなのかもしれません。

 吉田松陰の求心力は、時局を憂い絶えず視点を変え、理を見極め事を成すべしという思考と寧ろ玉となりて砕くるとも瓦となりて全かるなかれという行動が一致していることだと思います。

 でも、その求心力が幕末から明治、大正といった数々の時局における変革を成しえた一方で、次第に固定化した視点と経験が、昭和という興亡へと導いた呪文のような気がします。

初稿 2015/10/20
校正 2020/12/26
写真 元勲・山県有朋 旧別邸
撮影 2015/10/11(京都・高瀬川二条苑)
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§40「魔の山」 トーマス・マン, 1924.

2015-10-03 | Book Reviews
 現世と隔絶されたかのような高原の療養所が舞台。常に生と死に向き合わざるをえない人々の物語。

 就職前のほんの数週間の静養を兼ねて、従兄弟のヨーアヒムを見舞うために訪れたつもりのハンス・カストルプが経験する約6年の歳月。

 ヨーアヒムが病を圧して、軍人としての義務と責任を負うために復員し、病に打ち克てず命を落とす時も然り。クラウディアを想うハンス・カストルプが彼女のレントゲン写真を抱き締める時も然り。また、イエズス会のナフタとフリーメーソンのセテムブリーニ相反する思想を闘わせる時も然り。

 自らのなかで、生への不条理と死への渇望とが平衡するとき、時間的な変化は影を潜め、何も 生み出すこともなく、何ももたらされない自由が存在する。

 無限大の自由度が許容される場合、どの自由を選択するかは自己責任。どの自由も選択しないのも自己責任。

 現世と隔絶されたかのような高原の療養所から、敢えて第一次世界大戦の渦中に踏み込んだ彼は、ひょっとしてその自由から逃走することを試みたのかもしれません。

初稿 2015/10/03
校正 2015/12/27
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