Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§96「黄色い人」遠藤周作, 1955.

2019-11-26 | Book Reviews
 時は太平洋戦争のさなか、武庫川のほとり兵庫・仁川が舞台。愛してはならぬ女性と禁じられた逢瀬を重ねる神父と洗礼を受けた医学生が演じるのは、共に同じ罪を犯しながらも呵責にさいなまれる「白い人」と信仰そのものが理解できない「黄色い人」。

 「海と毒薬(→§8)」や「沈黙(→§10)」を形づくる原石のひとつだと思います。

 神の教えに背くことは罪であり、罰を受けなければならないと考える神父の姿は、まさに卓越した「自我」の顕れ。

 肺病を患い徴兵からは逃れたものの、空襲の惨禍からは逃れられなかった医学生の姿は、まさに忍び寄る「影」の顕れ。

 日本人でありながら、キリスト教を信仰する矛盾を描いたかのようにみえるものの、ひょっとしたら、「自我」に忍び寄る「影」との対峙を描こうとしているかもしれません。

 空襲の惨禍から逃れられなかった医学生が、自ら綴った手記と神父の日記を送ろうとした宛先は、もしかしたら、本当の自分「自己」だったような気がします。

初稿 2019/11/26
校正 2021/12/18
写真 鳩山会館
撮影 2019/11/09(東京・音羽)
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§95「白い人」遠藤周作, 1955.

2019-11-17 | Book Reviews
 時は第1次世界大戦のさなか、神童と呼ばれた主人公が祖国フランスを裏切り、ナチス・ドイツの秘密警察に力を貸したのはなぜか?

「海と毒薬(§8)」や「沈黙(§10)」を形づくる原石のひとつだと思います。

 自らの容貌にコンプレックスを抱きながら、まわりからの期待に応えようとする主人公の姿はまさに、「自我」の芽生えだったのかも知れません。

 しかしながら、敬虔なカトリック教徒である母親から厳格な躾を受け、期待に背くことが許されない少年期を過ごすなか、その「自我」の芽生えと引き換えに、抑圧されてきた様々な欲求が幾重にも潜む「影」。

 信仰のために生きようとする神学校の友人を拷問に陥れたのは、まわりからの期待に背いてまでも、自分らしく生きてみたいという「影」に潜む欲求、もうひとりの自分を証明しようとしたのかも知れません。

 とはいえ、自らが犯した罪は決して拭い去ることはできるはずもなく、罰を受けてでも自らが得ようとしたのは、本当の自分「自己」だったような気がします。

初稿 2019/11/17
校正 2021/12/17
写真 鳩山会館
撮影 2019/11/09(東京・音羽)
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