Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§58「城塞」(徳川家康) 司馬遼太郎, 1971.

2016-12-03 | Book Reviews
 大坂の陣において豊臣恩顧と称される人びとは二つほどあるような気がします。

 ひとつは、これまで世話になりし、これまで引き立てられた者が懐く敬慕に近い感情で、忠義のような拘束力を持たぬもの。例えば、淀君の乳母 大藏卿と大野治長を始めとする血縁や縁者は、言わば役割を与えず成果のみを期待する人びと。

 もうひとつは、これまで世話にならず、これから引き立てられる者が懐く野望に近い感情で、忠義を越えた戦闘力を秘めるもの。例えば、長宗我部盛親や真田幸村を始めとする改易された大名は、言わば役割を与えられず成果のみを期待される人びと。

 過去への瑕疵に寄り添ったといえども同情に他ならず、未来への投機は競り勝ったといえども戦局を覆す程に至らず、戦局を左右するのは、如何にふさわしい役割を与えるかに尽きるのかもしれません。

 徳川家康は、自らが放った間者がその役割を越えて天下を狙おうと夢見るほどに、その役割を与えただけでなく、豊臣恩顧のひとそれぞれにも役割を与えていたような気がします。

初稿 2016/12/03
校正 2020/12/02
写真 城砦に忍び寄る間者の眼差し
撮影 2012/12/19(大阪・大坂城)