Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β2「言の葉の庭」

2019-09-28 | Movie Reviews
 「秒速5センチメートル」が喪失した「自我」を再生へと導く序章であるのならば、「言の葉の庭」は喪失した「自我」と自らが切り捨ててきた「影」との対話のような気がします。

 自らの在るべき姿であったり、自らが成りたいイメージが「自我」であるのならば、その実現のための惜しみない努力であったり、培った思考パターンが「意識」のような気がします。

 一方で、「自我」を追求する過程で切り捨ててきた、ふさわしくない、こう成ってはならないイメージが「影」かもしれません。「自我」を喪失しそうなとき「意識」はなりをひそめ、「影」が頭をもたげるような気がします。

 そんな「影」も「自我」も自らに他ならないと意識するとき、喪失した「自我」を取り戻して壁を乗り越えることができるのかもしれません。

追伸 
 映画で引用される柿本人麻呂の相聞歌に託されたのは、なにがあろうとも此処にいると詠うわたしを引き留めてくれる誰かが、ひょっとしたら自らの「影」のような気もしてきます。

「雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」

「雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて 降らずとも われは留らむ 妹し留めば」

(新海誠 監督作品, 2013)

初稿 2019/09/28
校正 2020/09/09(2021/12/12 追伸)
写真 根津美術館
撮影 2019/04/21(東京・南青山)
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β1「秒速5センチメートル」

2019-09-21 | Movie Reviews
 桜の花びらが散りゆくスピードは秒速5センチメートルだそうです。そのスピードは受けとめようとしても掌からこぼれ落ちてしまうほど。

 散りゆく桜の花びらは美しさの象徴、自らが追い求める異性の理想像の暗喩なのかもしれず、ひょっとしたらユング心理学が提唱した無意識に潜む元型(アーキタイプ)と称されるアニマやアニムスなのかもしれません。

 振り返ったときそこに君はいない。必ずしも結ばれるとは限らない初恋の物語。

 自らを支配してきた記憶からの訣別は、喪失した「自我」を再生へ導く序章のような気がします。

(新海誠 監督作品, 2007)

初稿 2019/09/21
校正 2020/09/09
写真 神田川の桜
撮影 2012/04/08(東京・西新宿)
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§94「生きるとは、自分の物語をつくること」小川洋子, 河合隼雄, 2008.

2019-09-06 | Book Reviews
 自分は誰なのか?自分はどう在りたいのか?そのために何をすべきか?そういった問いかけそのものが、「自分の物語」なのかもしれません。

 その物語を演じていくことで、「自我」が形成され、成長していくような気がします。

 とはいえ、誰もが、「自分の物語」を見失い、「自我」を喪失しそうになる苦しい現実に直面するときがあると思います。
 
 その苦しい現実を、自分の心に合うように組み立て直して、そして受け入れようとするとき喪失した「自我」を再生する物語が始まります。

初稿 2019/09/06
校正 2020/09/10
写真 海中道路
撮影 2019/04/25(沖縄・うるま)
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