Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#79「思いもよらぬプレゼント」

2023-08-26 | Liner Notes
 社会人になりたての頃に揃えたオーディオ機器は当時わたしの宝物の一つでしたが、スマホで音楽を聴くようになってからはもはや部屋のお飾りになっていました。

 老いた父の在宅介護は約二か月ほど経ちますが、テレビを観てぼんやりと過ごすよりは、どうせならと思って好きな音楽を聴けるように父の部屋へ運び入れました。

 父が好きなグレンミラーオーケストラ、母が好きな越路吹雪、それぞれのベスト盤CDを聴くなかで、当時の記憶が甦るせいか二人は思い出話に花が咲き、それを聞く私たちにとっては、はじめて知る話もありました。

「〜 楽しい夢のような あの頃を思い出せば サン・トワ・マミー〜」(作詞 岩谷時子・S.Adamo)

 「サン・トワ・マミー」とは、"あなた無しではいられない"という意味だそうで、ひょっとしたら、この曲を聴くときにだけ"二人だけの〈世界〉が存在している"のかもしれません。

追伸 社会人なりたての自分へのプレゼントが約25年の時を経て両親へのプレゼントにもなり、そして、二人だけの〈世界〉を垣間見せてくれた物語のような気もします。

初稿 2023/08/26
写真 DENON USC-M10/UD-M10
撮影 2023/07/15

α40E「シェリー」朝倉響子, 1990.

2023-08-20 | Exhibition Reviews
 東京・池袋に在る向かい合う「マリとシェリー」、向き合う二人の姿から受ける印象※1とは別に、一人に焦点を充てるとまた違う印象をもたらしてくれます。

 身の丈いっぱいに立ち上がり、しっかり前を向いて歩き出そうとしている姿にも観えるような気がするのは、時間や場所を超えて「ジル」から続く成長への軌跡の物語の一つなのかもしれません。

 ところで、作者である朝倉響子は対談集のなかでこう述べています。

「私の表現したいもののために。対象を作るという行為は、自分の意識の拡大なの。言葉にたとえれば、対象を通して自分の詩が生まれるわけです」※2

 ひょっとして、作る人も観る人も、その対象を通して自ずから分かる自分の〈世界〉を物語ろうとしているのかもしれません。

初稿 2023/08/20
写真「シェリー」朝倉響子, 1990.
撮影 2023/05/23(東京・池袋)
注釈
※1)α18A「マリとシェリー」朝倉響子, 1990.
※2)「光と波とー朝倉響子彫塑集」p.91, 1980.

α39E「Jill」朝倉響子,  1991.

2023-08-13 | Exhibition Reviews
 朝倉響子の作品には同じ名をつけたものが幾つかありますが、「ジル」もそのひとつ。

 日本橋と御堂筋で観た「ジル」※1は、つま先を立てながら椅子に腰を掛けた姿は同じであっても、両手の指の絡ませ方や表情から不安や戸惑う印象を与えるのもまた成長の一過程を示唆しているのかもしれません。

 ところで、結果には必ず原因があるはずという因果性の考え方に"とらわれ"てしまうと、その原因を回避しようと"はからう"のかもしれません。

 でも、その原因は一つであるとは限らず、しかも、その原因が過去の出来事であれば変えようもなく、なにかをきっかけに呼び起こされてしまうような気がします。

 ひょっとしたら、身の丈いっぱいに立ち上がった眼前の「Jill」は、因果性にとらわれない"あるがまま"の〈わたし〉を示唆しているのかもしれません。

初稿 2023/08/13
写真「Jill」朝倉響子, 1991.
撮影 2023/02/05(東京・多摩)
注釈 ※1)α36E「ジル」朝倉響子, 1993., α16A「ジル」 朝倉響子, 1988.

α38E「ソフィー」朝倉響子, 1986.

2023-08-05 | Exhibition Reviews
 朝倉響子の作品には同じ名をつけたものが幾つかありますが、「ソフィー」※1もそのひとつ。

 その名は知ることを意味し、"なぜ、それがそうなのか?"と問うことなのかもしれません。

 でも、"その原因はなにか?"と現在から過去に遡って辿ろうとすると、変えることができない過去の出来事を都合よく解釈したり、責任を転嫁したり、場合によっては希望を放棄してしまうこともあるような気がします。

 ひょっとしたら、眼前の「ソフィー」は、そういった因果律に縛られぬように、しっかりと腰を据えて未来を見つめているのかもしれません。

「言い換えると、『どこから』ではなく、『どこへ』を問うているのです」※2

初稿 2023/08/07
写真 「ソフィー」朝倉響子, 1986.
撮影 2023/02/26(神戸・ポートアイランド)
注釈
※1)α29C「ソフィー」朝倉響子, 1986.
※2)「アドラー心理学入門」(p.49)岸見一郎, 1999.