労働者のこだま(国内政治)

政治・経済問題を扱っています。筆者は主に横井邦彦です。

まるで他人事のように

2010-06-13 22:32:33 | Weblog
 「警告(けいこく)とは、コミュニケーション手段の一種で、相手にこれから起こりうること、あるいは行ってしまったことに対する結果を告げることである。」のだそうだが、どうも、北朝鮮と外部世界(特に、日本)ではうまくコミュニケーションがとれていないような気がする。

 北朝鮮は外部世界に、韓国がAという行為をとったから自分たちはBという行為をとると「布告」しているのに、外部世界(特に日本)は、北朝鮮は韓国がAという行為をとったら北朝鮮はBという行為をとると「警告」していると受けとめている。つまり、休戦ラインにスピーカーを設置しても、実際にそれを作動させ、いやがらせをしなければ北朝鮮が攻撃してくることはないであろうと受けとめている。

 しかし、現実には、北朝鮮は動員令を布告し、休戦ラインに特殊部隊を中心とした10万人程度の兵力を貼り付けており、韓国に休戦合意の破棄を通告している。

 北朝鮮軍部が、北朝鮮政府はじり貧であり、武力による朝鮮半島の統一は先に行けばいくほどむずかしくなっていく、だとすれば戦争を仕掛けるのは自分たちに体力が残っている今しかない、だからこれから戦争をやるのだといっているのに、実際に戦争が始まらないのは、戦争の正当性がまだ確保されていない(戦争の条件は成熟しているが、成熟しきっていない)と北朝鮮が考えているからであろう。北朝鮮の行為が侵略と非難されないためには、自分たちはがまんにががまんを重ねてきたが、世界がわれわれのいうことに耳を傾けないために、しかたなく開戦に踏み切ったという形式をとる必要がある。(したがってこういう危機が現実化するのは14日の安保理協議以降ということになる)

 北朝鮮の真意を知るにつれて、アメリカも韓国もここへ来て急速に口が重くなっているが、それに比例して日本の軽さがきわだち始めている。

 『日本経済新聞』によれば、「集団的自衛権の行使を含む支援を言明するだけでも抑止力は高まり、普天間で傷んだ日米関係も急速に改善する」のだそうだが、これから戦争をやろうじゃないかという相手に、「受けて立つ」ということは、戦争の抑止力どころか戦争を煽る危険な行為でしかないであろう。

 また日本政府が「集団的自衛権の行使を含む支援を言明する」ことが果たして「日米関係を急速に改善する」方策であろうか?

 これについて同紙は「日本国内での活動に人員提供する陸上自衛隊には不安がある。宮崎では牛豚を埋めるために自衛官たちが穴を掘る。口蹄疫(こうていえき)が全国に広がり、そこに周辺事態が起きたら・・・・陸自だけではなく、日本全体にとって悪夢である。」という。

 日本の軍隊(自衛隊)には二正面作戦はできないが、アメリカ軍ならできるというのはすでに過去の話である。今年の1月にアメリカの国防総省は、米軍の主要任務について、二つの大規模紛争に同時に対処する従来の「二正面作戦」から、対テロや大量兵器拡散防止に移すことを決定している。

 したがって、アフガニスタンとメキシコ湾の原油流出に手一杯のアメリカ軍にとって、朝鮮半島で新たな戦線を開くというのは、アメリカ軍だけではなく、アメリカ合衆国全体にとって悪夢でしかないのではないか。

 これが最近、先週、米韓の合同訓練が直前になって延期された理由であり、急速にアメリカの口が重くなってきた原因であろう。

 そして韓国もアメリカの全面的な支援が期待できないから腰砕けになり始めているのであろう。

 そういう時に『日本経済新聞』紙はいうのである。自分たちは実際の戦闘には参加できないが応援しますから、心おきなく戦ってください、と。

 むしろこれはこれまでの日本政府の混乱した北朝鮮政策の破綻以外の何ものでもないであろう。

 「国際社会の進めているのは、北朝鮮に対する制裁強化だが、追いつめられた北朝鮮が新たな挑発に出る危険なしとしない。

 この国の冒険主義に終止符を打つには体制の転換しかない、と多くの人が直感する。が、そのために軍事力を使った場合の犠牲を考えれば、当面は制裁を強化し、北朝鮮の変化を期待するしかない。」

 北朝鮮に対する制裁の強化が、北朝鮮を追いつめ、追いつめられた北朝鮮が新たな挑発に出る。この国の冒険主義に終止符を打つには体制の転換しかないだろうが、それが戦争という過程を付随するならば大きな犠牲が出る。

 こういうことが分かっていながら、なおも北朝鮮に対する制裁を強化して、『日本経済新聞』紙は一体何を北朝鮮政府に期待するのであろうか?

 制裁によって、北朝鮮を追いつめ、北朝鮮が暴発するのを待つことが日本政府の戦略であり、そのために日本政府の外交努力が積み重ねられてきた、とするなら、第二次朝鮮戦争は日本によって仕組まれたものであるということになりはしないか。

 こういう戦争誘発外交は戦前からの日本外交の特徴であった。

 一般的には、日本の中国侵略は1931年の満州事変から始まっているといわれているが、日本の外交政策はそれ以前から日本と中国の戦争を想定してたてられていた。

 つまり、当時の中国の国民党政府による帝国主義諸国の利権回復要求(この中には満鉄の中国への返還も含まれていた)に答えることができないと考えた日本の外務省は日中間の対立の緩和よりも激化、鮮明化させる政策を選択していた。

 現在の日本の北朝鮮政策は、この来るべき戦争を想定し、それに至る過程を促進するような外交政策がとられており、この過程にしたがってものごとは進んでいる。

 日本がこのような外交政策を継続し、これからも継続しようとするのは、いうまでもなく、日本にとって北朝鮮問題は他人事であり、例え、第二次朝鮮戦争が起こっても戦場は朝鮮半島であり、日本はアメリカ軍に日本の在日米軍基地からの出撃を容認するだけですむだろうと思っているからである。

 しかしこれは日本のブルジョアジーの独断であり、ものごとは必ずしもそのように進むとはかぎらないであろう。


第二次朝鮮戦争はあるか

2010-06-13 02:00:50 | Weblog
 基本的にこういう質問に対して正確に答えうるのは朝鮮人民軍総参謀本部なのだろうが、その総参謀本部がまもなく軍事行動をおこなうというのだから、それはそういうものとして素直に受け取った方がいいのではないか。

 なお、湾岸戦争の時、フセインはクウェートがルマイラ油田から石油を盗掘していると非難して、報復のために軍事行動に出ると警告していたので、世界は軍事衝突が起きても国境紛争程度ではないかと思っていたが、実際には、イラク軍はクウェートを丸ごと占領してしまった。

 ルマイラ油田云々が開戦の口実であったとするなら、別に戦争を局地戦に限定して考える必要はないわけで、「韓国が、北朝鮮を非難する放送を再開するために軍事境界線にスピーカーを設置し始めたこと」が北朝鮮軍の開戦の口実であるとするなら、その攻撃対象は決して局地戦にとどまるものではない。

 中国人民解放軍の幹部は北朝鮮が戦争に乗り出す可能性がある理由として朝鮮人民軍の指導部の高齢化をあげているが、早い話、朝鮮戦争当時の北朝鮮軍部がそのまま、現在の朝鮮人民軍の指導部として残っているということであり、年齢も80才前後である。

 彼らにとって先の朝鮮戦争は“未完の戦争”であり、自分が生きているうちに決着をつけたい戦争であり、自分の余命があまりないということになれば、ここで決着をつけようじゃないか、ということになる。

 もう一つが、北朝鮮がさかんにふりまいている“謀略論”である。日本では革共同革マル派と日本革命的共産主義者同盟(JRCL)中央委員会(通称、“4トロ”)が機関紙でこの“謀略論”を肯定的に紹介しており、日本共産党と革共同中核派は無視している。

 もちろん、朝鮮労働党は韓国と日本で彼らの“謀略論”がどの程度受け入れられるか、重大な関心を持って見ているが、“左翼”のある程度の部分に彼らの“謀略論」が受け入れられたと彼らが評価したのであれば、北朝鮮軍は本当に出てくる可能性が高くなる。

 これは一見すると不思議な話で、革マル派も“4トロ”も、こういう“謀略論”を軍事的な対立をこれ以上激化させないためにという“善意”で受け入れているのだが、北朝鮮の評価はまったく別だ。彼らは自分たちの主張を理解してくれる“同志”が日本にも韓国にもいるのであれば、自分たちがやっていること、これからやろうとしていることは正しいのだと、ますます行動をエスカレートさせていく。

 そういう点からするなら、われわれや日本共産党や中核派や中国共産党が北朝鮮の“謀略論”を無視していることは、北朝鮮を開戦に向かわせないためのある程度の抑止力にはなっているだろうが、これも程度の問題でしかない。

 もちろん、全面戦争といってもソウルを48時間以内に占領するという局地戦以上のことはできないだろうが、こういう事態になれば、戦争は彼らの思惑を越えて広がっていくことは間違いない。

 前回、朝鮮戦争が始まったのは、1950年の6月25日である。25日まで後2週間足らずだが、朝鮮半島は非常に緊迫した局面を迎えつつある。