金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

支出に不思議の支出あり収入に不思議の収入なし

2017年07月06日 | シニア道

先日昔務めていた銀行の後輩Fさんと一杯飲んだ。Fさんは60代前半。今ある団体の事務局長をしていて多少の収入がある。

Fさんが「ものの本に老後資金は3千万円必要と書いてありましたが本当ですか?」と聞いてきた。Fさんは金融の素人ではない。証券運用畑を長く歩き、その後営業店の支店長も経験しているから、世間一般的には金融の専門家である。したがってこの質問も素朴な疑問というよりは「ある答を持った上での確認程度のもの」だったと解するべきだろう。

私は次のように答えた。「3千万円という数字は私も目にすることがある。その根拠は次のようなものだろう。『生命保険文化センター』の調査によると『夫婦2人のゆとりのある生活費は月34.9万円」だ。一方『サラリーマン+専業主婦が受け取る厚生年金・国民年金の平均は月22万円程度』だ。公的年金だけでゆとりある生活を送ろうとすると月13万円年間では156万円不足する」「この不足状態が20年間続くと3,120万円になる。もっともかなり歳をとると、ゆとりある生活費も減ってくるから3千万円という数字が歩いているのだ」

3千万円は必ずしも銀行預金や株式・投資信託としてリタイア時点で自分の口座にある必要はない。企業年金や個人年金のある人はその年金額を差し引いて必要な資金を計算すればよい訳だ。

という程度のことはFさんも分かっているはず。でも少し先輩の私に聞いてきたのは、「月35万円でゆとりのある生活を送ることができるのか?」という点が疑問だったのかもしれない。

この点について正解はない。もちろん現在の私が35万円でゆとりのある生活を送ることができるかどうか?ということに答はあるが、一般論としては分からない。なぜ分からないか?というとそれは「ゆとりを得る費用」と「支出要因」の個人差があまりに大きいからである。

まず「支出要因」について考えてみよう。支出要因の第1は住居の問題だ。一戸建てに住んでいるのかマンションに住んでいるのか?持ち家か賃貸か?でまずランニングコストが違う。また一戸建ての場合はこれまで「どれだけ補修や改築を行ってきたか」によって今後の資本的支出は大幅に違う。

第2の問題は、親の介護の問題だ。親が活きているかいないか?健康かどうか?親が近くにいるのか遠くに住んでいるのか?によりコスト負担が相当変わってくる。

第3は自分や家族の健康状態の問題だろう。

次に「ゆとりを得る費用」の問題を考えてみよう。簡単にいうと「何が満たされているとゆとりがある」と考えるか?という問題だ。

年1回夫婦で海外旅行に行き、数回国内旅行をしないとゆとりがある、と感じない人にとっては月35万円の生活費ではゆとりがあると感じないかもしれない。しかし家庭菜園で季節の野菜を収穫し、収穫した食材をベースに仲間が寄り集まって、パーティをすることなどにゆとりを感じる人にとっては月35万円という生活費はゆとりを生み出す原資となる。

「ゆとり感」は恐らく現役時代の暮らし方とリタイア後の暮らし方の違いの大きさでも示されるだろう。現役時代の暮らし方とリタイア後の暮らし方にあまり差がなければ「ゆとり感」があり、リタイア後に「切り詰めた生活をしている」という感じが強いと「ゆとり感」はないだろう。従って老後の「ゆとり感」を得るためには、リタイア前からライフスタイルをあまりお金を使わなくても満足できるように変えていく必要があるのだ。

ところでリタイア後は「支出に不思議の支出あり収入に不思議の収入なし」という法則があることは頭にとめておいた方が良い。この言葉は私が松浦静山の「負けに不思議の負けなし勝ちに不思議の勝ちなし」という言葉をもじったものだ。

静山の言葉は「負けるには負けるだけの理由がある。勝つ場合は偶然勝つこともあるが」という意味で、負ける要因をなくすべく剣術に励めという意味だと私は解している。

もじった法則?についていえば、支出には想定外の支出というものがある。事故・災害などがその典型だ。しかし臨時収入というものはほとんど期待できない(ごく稀に持っている株が大化けすること位はあるが)。それを前提にフィナンシャルプランをたてようというのが私の提言だ。そして「不思議の支出」に対して備え(預貯金と保険)をどれ位持っているか?が「ゆとり感」につながるのだろうと私は考えている。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« アメリカはもはや「自由の土... | トップ | 本当の「終活」とは何だろう »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

シニア道」カテゴリの最新記事