私は別に全面的にアメリカ人が優秀だなどとは思わない。しかし一つ優れた点があるとすると「現実を直視し、問題を先延ばししない」という点だと思っている。経済的に見ると事業に成算が見込まれない時は、延命装置を外し、破産を選択する。無論これは時として武力行使につながったり、ハードランディングを招く危険性は伴うが。
ニューヨーク・タイムズはギリシアのデフォルトの可能性を論じているが、その論調も同じようなものだ。「ギリシアは断崖に近い」という記事の中で同紙は「私の見解ではギリシアは債務を弁済できる見通しがつかないので、今デフォルトすることが、非常に同国の利益にかなう。支払能力のないギリシアが債務をリストラしなければならないとすれば今それを行なうのがベターである」というIMFの前エコノミスト・Lachman氏の言葉で記事を結んでいる。
もっとも同紙はギリシアのデフォルトが引き起こす影響について軽視している訳ではない。金融危機はつねに予期せぬ結果を招くし、多くの人々が巻き添え被害あると予想しているからだ。10年程前に起きた国家のデフォルトは金融危機の感染を引き起こさなかった。2001年にデフォルトを起こしたアルゼンチンの債務総額は820億ドルで98年にデフォルトを起こしたロシアのそれは790億ドルだった。これに較べてギリシアの公的債務は5千億ドルと規模が5倍以上だ。またギリシアがデフォルトを起こした場合、プレッシャーを受けるイタリアの債務はギリシアの5倍である。ギリシアのデフォルトの影響は過去の経験からは推測できないものがあるだろう。
このような懸念があるからギリシアはデフォルトを避けようとして、更なる緊縮プランの立法化に向けて他の欧州諸国とともに必死になって動いている。
だが幾ら政府の支出を削減しても山のような債務を支払うことはできない。財政支出の削減は既に経済を収縮させている。その借金を減らすにはリストラして元本の一部を免除するしかないだろうというのが同紙の基本的なスタンスだ。
市場でギリシアの国債は額面の4割以下で取引されている。ということは多くの投資家はギリシア国債のリストラが行なわれる場合、額面の6割程度の債権が切り捨てられる可能性があると判断していることを意味する。
記事はシティグループのチーフエコノミスト・Buiter氏の二つのデフォルトシナリオを紹介している。一つはギリシアが「民間銀行に額面の60%から80%の負担を負わせる一方、欧州連合やIMFなど公的機関への支払を続けることでユーロ圏内に留まる」というもので、この場合はテクニカルにはデフォルトだが、ギリシアは無条件に債務支払を拒絶する訳ではないので、理論的には危機の伝染は押さえ込める。もう一つは「ギリシアがユーロ離脱を決意するかあるいは離脱を迫られるというもので、債務の償却は100%に近づき、かつ国際金融市場に与える影響はより深刻になる可能性が高い。
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返済することが出来ない程、借金が積みあがってしまうとデフォルトして債務の切捨てをするしかない・・・というのが現実的対応というものなのだろうか?
ギリシアにとってユーロ圏に留まり、経済力の強いドイツなどと同じ通貨で競争していてはいつまでも経済成長は望めず、借金の返済の目処は立ってこない。国際金融市場に与える悪影響は大きいが、ユーロ離脱はギリシアにとって「平価切下げ」効果があり競争力の回復につながる。
ギリシアの指導層がタイムズの記事を読むとすれば、彼等はなんらかの示唆を受けるのだろうか?