金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本の金利引き上げは総裁選後へ

2006年06月16日 | 株式

梅雨でうっとうしい天気が続くが、株式相場は少し底入れ感が出てきた様だ。私のささやかなポートフォリオも一時、小型自動車1台分位の時価減になっていたが、軽自動車程度になってきた。株式相場の反転は米国市場が反転したことによることが大きいが、日本の金利引き上げが少し先延ばしになる可能性が高いことも支援材料になっている。

金利引き上げが先延ばしになる可能性が高いことは、日銀の福井総裁の村上ファンド出資・個別株投資問題にかかわっている。エコノミスト誌は15日付で「福井のへま」Fukui's funbleという題で短い記事を書いている。日本のマスコミが言及しない切り口があるので紹介した上でコメントを述べよう。

  • 日本の向こう数ヶ月の金融政策は既にはっきりしないunclear状態だったが、ますます理解し難くmurkierなった。6月13日福井総裁は議会で村上ファンドに投資していたことを告げた後、民主党は総裁辞任を求めた。これに対し自民党政府は直ちに団結して辞任不要を表明した。日本のマスコミはあたかも総裁がもう一人の著名な悪役であるかの様につきまとっている。彼の将来は国民の意見の裁きの場に委ねられている。
  • 総裁のファンド投資は1999年に行なわれている。総裁はファンドへの出資を「貢献」(原文ではcontribution、寄付という意味もある)と呼びたいと言っている。投資であれ貢献であれ、これは秘密ではなかった。エコノミスト誌は昨年10月にこのことを言及していた。
  • 総裁はファンド投資の持分売却を2月に申し入れた。この償還は6月末になる。驚くべきことに日銀総裁は就任前に投資資産を信託財産にすることを義務付けられていないのである。日銀のコンプライアンスの責任者は部下の副総裁なので、政策決定委員会が裁定者になるというのが好ましかっただろう。
  • 次は売却タイミングである。1月下旬にライブドアの堀江元社長が逮捕されたが、査察は村上氏にも及ぶのではないかといううわさが蔓延していた。福井総裁は議会で「2月までに村上氏に懸念を持ち始めていた」と告げている。
  • 売却申し入れの時、総裁は「量的緩和」の終了という彼の経験の中で最大の意思決定を熟考していた。量的緩和停止の発表は3月になされ、流動性が抑制され株式市場は低下し始めた。
  • 今更に大きな意思決定が控えている。それは何時金利を引き上げるか?ということだ。6月15日の政策委員会で日銀は金利を据え置いた。株式相場の下落は問題を複雑にさせている。否定はしているが、直ぐに解決が見えない福井総裁の苦境が意思決定を更に複雑にしている。仮に総裁が生き残るにしても、やっと勝ち取った日銀の独立性が蝕まれるという世論は残るだろう。自民党は日銀は与党に借りがあると主張するだろう。金利の引き上げは9月の自民党総裁選挙の後になる可能性が増してきている。

福井総裁が辞めるべきかどうか?ということについて、私見を述べると現在知っている情報から判断する限り辞める必要はないということになる。つまり日銀が定めた服務規程に違反がないからである。もっとも閣僚に対する個人投資規定や他国の中央銀行総裁に対する個人投資規定に較べて日銀の規定が甘いという批判はあるが、それは総裁一人が負うものではない。過ちては改むるに如かずである。将来へ向けて早期にコンプライアンスを強化するべきである。

私は福井総裁が富士通総研の理事長だった時一度講演会で話を聞いたことがあるが、中々明快なもの言いの人だと思ったことがある。村上ファンドへの出資が「収益狙いの投資ではなく」「日本の活性化への貢献」であるという話も信じることが出来ると考えている。ある種の情熱と脇の甘さが今回の問題に繋がったと見ている。

エコノミスト誌は福井総裁の将来は国民の意見に委ねられたといっている。世論の形成に大きな力を持つマスコミの見識のある報道が求められるところだ。株式市場を中心に金融市場が大きな動揺を見ないということであれば、プロの世界は福井総裁の辞任を否定していると考えて良い。金融を政争の具にして市場に混乱を招く愚は避けたいものである。

ただ福井総裁を高く評価していたエコノミスト誌が今のところ彼を強くサポートする記事を書いていないことはこの問題を世界の政治・経済のプロがどう見るかという上で若干の懸念材料である。

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