連銀の高金利政策が続いても中々鎮静化しないのがアメリカのインフレだ。伝統的な経済理論では、金利上昇→企業の投資や雇用意欲減退→勤労者の所得減→消費の鈍化というサイクルで物価上昇に歯止めがかかる、ということになるのだが、現在のアメリカでは話はそうは単純ではないようだ。
つまり金利の高止まりが、債券投資等からの受取利息を増やし、それが消費者(少なくともあるレベルの)の消費意欲を支えているという事実があるからだ。
WSJはAmericans have more investment income than ever beforeという記事で次のようなことを述べていた。
- アメリカ人は第1四半期に金利・配当収入で3.7兆ドル稼いだ。これは4年前より約7千7百億ドル大きい(商務省)。
- 株、不動産、年金などに蓄積された富は昨年最後の四半期に過去最高になった(連銀)。
- 多くの投資家は高金利により、株価は下落すると予想していた。しかし人工知能ブームで、ハイテク・チップメーカーさらには(電力需要増加の予想で)電力会社の株価が上昇し、インデックスを記録的な高値に押し上げている。
- 資産効果がどれ位消費を押し上げているか?またその効果がどれ位続くか?という点については経済学者の意見は分かれている。しかし高金利・高配当で受け取った金の一部はレストランでの飲食、ホテル代、買い物などを通じて実経済に還流している。
あまり日本では話題になっていないが、アメリカの公的年金(ソーシャルセキュリティ)は、100%物価スライド制だ。つまりアメリカのシニアの収入の内、年金部分はインフレリスクフリーだといえる。もっとも公的年金だけでは
生活費は足りないだろうから、その分は資産運用収入で補っている訳だ。長期金利の上昇で、国債金利5%近くになるとそこで利回りをロックインすればリスクフリーで長期間高利回りを得ることができる。
それに引き換え日本のシニアは、物価が3.2%上昇しても、年金の支給額は2.7%しか増えないので収入は目減りしている。日本の国債金利が上がってきたといっても1%ではとてもロックインする気にはなれないだろう。
マスコミの中には、この前まで老後資金は2千万円必要、といっていたのに早くも4千万円必要と書き始めているところもある。
マスコミは売らんがためにセンセーショナルなことを書くので、いちいち真に受ける必要はない。しかし日米の消費者のインフレ抵抗力にかなり差があることは、頭に入れておいた方が良いと思う。投資家としては。