追憶の彼方。

思いつくまま、思い出すままに、日々是好日。

世界の異常気象(2)

2022年11月05日 | 文化・文明
「世界的な異常気象によるトラブル」(1)
(温暖化に苦しむ地中海諸国)
古代ギリシャ文明やローマ帝国を育み、今尚ヨーロッパ、アジア、アフリカ大陸を繋ぐ世界の海上交通の要衝の一つである地中海。夏は乾燥し、冬には湿潤な地中海気候がオリーブやブドウ等の樹木性作物の栽培の為の適地や、太陽を求めて世界各地から人を惹き付けるヨーロッパ屈指の観光地、仏のニース、伊のカプリ島,マルタ等の観光資源を提供して来た地中海が急速に進む温暖化の被害に苦しめられている。
元々海は地球温暖化の進行をやわらげる重要な役割を担って来た。 例えば、1971年から2010年までの40年間に地球全体で蓄積された熱エネルギーの9割以上は海洋に吸収され、 又地球温暖化の原因である人間活動によって放出された二酸化炭素の約3割を海洋が吸収して、大気中の二酸化炭素の濃度の上昇を抑えて来たという調査報告がある。しかし海洋の熱エネルギー等の吸収力も限界に達し海水温上昇が見え始めたことで、これがさまざまな地球規模の気候変動の発生頻度を高め、変動幅を更に大きくしていると見られている。深刻な被害を起こしている異常気象の正体は海水温の上昇に依る処が大きく、最早、海は(冷却水・冷却装置)ではなく、(湯たんぽ・温風器)に変わる危険性を孕んでいる。大気の温暖化に加えて、海が放つ熱が重なり気候変動をより激しくするようになったという事実が判明したのである。
そう言った状況の中、地中海平均の深さは1千5百メートルで、太平洋(4千200m)や大西洋(3千700m)に比べて可なり浅い。其の為海水温の上昇がより顕著となり易く、海水温の上昇は世界最速ペース、地球の海洋全体の20%も早く進んでいる。今年は海水面の温度が例年より4~5度高く、イタリア沖などで30度を記録し、地中海を囲む国々に深刻な熱波、旱魃、集中豪雨をもたらし、最悪の形で地球温暖化の影響を体感させることとなった。2017年に公表された英・仏・蘭3国の共同研究で海水温が上昇すれば沿岸各地の気温が上昇し、地上での水の蒸発が加速し旱魃に繋がる事が解明された。
今年度、地中海沿岸で極端な気象現象が相次いだ。スペインでは7月、アンダルシア地方で46度を記録、北部ガリシア地方でも44度を記録した。7月全土の平均気温はこれ迄の最高記録を2.7度も上回り25.6度、観測史上最高となった。日本で言う「熱帯夜」の状態が全土で1か月続いたことになる。ヨーロッパ・アルプスの観光も大きな被害を受けた。イタリアの世界遺産ドロミテとチロルの山小屋を巡るトレッキングで永久凍土と見られていた氷河が気温10度で崩落し11人の死者を出した。フランスとの国境にある欧州最高の名峰「モンブラン」は今夏一般客の登山が禁止され、フランス側では登山希望者には捜索費用等保証金200万円強の預託を義務付ける事態となった。フランス南部、世界有数のワインの産地・「ボルドー」周辺では連日あちこちで森林火災が発生し8月前半だけで被害は数千ヘクタールに及んだ。ボルドーと対峙する銘醸地帯・「ブルゴーニュ」では水不足でブドウの粒が小さくなり、ワイン生産に黒い影を投げかけた。他方コルシカや地中海沿岸のブドウ畑は豪雨に見舞われ水浸しの被害を被った。
エジプトのカイロ近郊では冬場の夜間気温が17度を超え(5~7度上昇)オリーブの収穫量が例年の90%減と壊滅的な被害を受けたと報じられている。
海水温上昇で海洋生物にも大きな影響を与えた。近年、ふ化したウミガメの子供の殆どがメスだったという調査結果が報告された。ビーチの巣の温度が30度を超えるとメスになり、34度を超えると死滅すると言われている。オーストラリア・グレートバリアリーフ北部で生まれた300匹以上の性別は99%以上がメスだったという結果も報告されている。
奈良時代、シルクロードを経て正倉院に辿り着いた地中海の赤サンゴ、今も名産品の宝石として日本でも馴染みの深い赤サンゴが大きな被害を受けている。サンゴは熱波によって、高温に晒されると其の儘死滅するか、或いはサンゴの体内に生息する共生藻を放出して栄養を断たれ、白化現象を起こして死に至る。スペイン・バレンシア州、イベリア半島49km沖合に位置するコルンブレテス諸島周辺の海底を覆うサンゴは、猛暑による熱ストレスを受けて全体の4分の1が失われた。サンゴ礁は「海の熱帯林」、「海のオアシス」と呼ばれ、一酸化炭素を吸収、酸素を供給し、更にはさまざまな生き物の住み家や産卵場所を提供し、海洋生態系の中で重要な役割を担って居る事が良く知られて居り、地中海諸国はサンゴ礁の保護・回復の研究に力を入れ始めた。
地中海はスエズ運河を通じ、紅海を経由しインド洋に繋がっているが、2015年の運河拡張工事と地中海の温度上昇によって熱帯・亜熱帯の魚が大挙して現れた。海洋生物学者の推計では1300種の外来種が生息し、生態系が崩れていると述べている。猛毒のセンニンフグや恐ろし気なカサゴ(日本では高級魚)にイタリアやクロアチア海浜の住民を震え上がらせている。
地中海に面していない国々でも旱魃と熱波は深刻だった。ドイツでは極端な干ばつで川や湖の水が大きく下がり交通や産業に影響が出た。河川交通の大動脈、ライン川が水位低下で麻痺状態、8月半ば一部で水深が30センチ、河川交通に必要な1.5メートルを大きく下回った。英国では7月、イングランド南東部のコニグスピー村で43度の最高気温を記録した。同国で40度超えは観測史上初めて、人気の観光地コーンウオール地方は普段の穏やかな景色が猛暑で一変、あちこちの湖が干上がり、地元メデイアは「この世の終わりの様な風景」と伝えた。
温暖だった西欧は豊富な水資源を生かした文明を築いてきた為、水不足対策は全くできていない。EUは節水を呼び掛ける程度で「渇水」と言う新たな危機に直面している。
この夏、熱波に襲われたヨーロッパでは各地で山火事が発生し、7月23日までの集計で2022年のヨーロッパ全土の森林焼失面積は欧州森林火災情報システム(EFFIS)によると、51.5万ヘクタールを超えた。この数字は2006~2021年の同期間平均の約4倍にあたる。
イギリスでは40度を超える暑さに襲われ、各地で山火事が発生。フランスは7月だけでも南西部のジロンド県の山火事だけで約2万ヘクタールの森林が焼失し、3.7万人の住民が避難を余儀なくされた。スペイン、ポルトガルでも最高気温が40度前後を記録し、ポルトガルでは250カ所を超える山火事による森林焼失面積が2017年以降最大となった。スペインでは熱波による死者は1000人を超えている。
ドイツも各地で40度超えの記録的な暑さに見舞われ、7月25日ごろから東部ブランデンブルク州のチェコとの国境沿いで両国にまたがって大規模な森林火災が発生した。本格的な消火活動が空と陸から行われたが、完全な鎮火には「数週間かかる」と当局は述べている。とくに乾燥した松林に覆われた同地域では、第2次世界大戦で残された不発弾などの弾薬が地中に多く埋まっていることから消火が難航し、住民も避難を強いられた。
猛暑は山火事や作物への影響だけでなく、経済活動や人間の日常生活そのものにも深刻な影響を与えている。大半の世帯が冷房装置のない欧州では熱帯夜で眠れない夜が続いて居り、一般家庭でも冷房機の設置が不可欠になりつつある。


「世界的な異常気象によるトラブル」(2)
(雲の戦争…水紛争)へ
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 世界の異常気象 | トップ | 世界の異常気象(3) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

文化・文明」カテゴリの最新記事